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第7話:神覚者の審判と、折れない盾
アドラ寮の廊下。レイン・エイムズの放つ重圧に、フィンの喉がヒクリと鳴った。
だが、ドット・バレットだけは退かない。アネモネを背中に隠したまま、一歩も引かずにレインを睨みつける。
「試すだぁ? 上等だわな! 神覚者だろうがウサギ好きだろうが、アネモネに指一本触れさせねえぞ!」
「……威勢だけはいいな。だが、言葉より重いのが魔法の世界だ」
レインが杖を軽く振ると、無数の剣が空中に現れた。パルチザン――その鋭利な刃先が、ドットではなく、敢えて背後のアネモネへと向けられる。
「っ……!」
アネモネは身を硬くした。彼女の『毒』は悪意に反応する。だが、目の前の男にあるのは純粋な「義務」と「選別」。彼女の防衛本能である毒の茨は、対象が「無機質な強者」である場合、その鋭さを失ってしまう。
「アネモネ、動くなっ!」
ドットが叫ぶ。レインの剣が、容赦なく放たれた。
ドットは自身の身を盾にするように飛び込み、爆破魔法で迎撃を試みるが、格上の神覚者の魔法は一筋縄ではいかない。剣の一振りがドットの肩を掠め、鮮血が舞った。
「ドット……! もういいわ、私が出る! あんたが傷つく必要なんて――」
「黙ってろっつーの! 『万死に値する』んだろ、俺が傷つくのは!」
ドットは肩を抑えながら、不敵に笑った。その瞳には、恐怖ではなく、狂気すら孕んだ執着が宿っている。
「お前はよ、その毒でいつか誰かを救うんだろ? だったら、お前の手が汚れる前に、俺が全部ぶっ壊してやるよ。俺は『全肯定』の男だ。お前の前を塞ぐモンは、神覚者だろうが運命だろうが、俺様が焼き尽くすんだわな!」
ドットの魔力が膨れ上がる。感情に呼応して、彼の額に浮き出る紋章――。
それを見たレインは、僅かに目を細め、召喚していた剣を消した。
「……フン。暑苦しい男だ」
「……あ? 逃げんのかコラ!」
「試験は終了だ。アネモネ・ロスト。お前の毒は、この『壊れた盾』があれば暴走することはないだろう。……精々、その盾が錆びないよう磨いておくんだな」
レインは翻すと、何食わぬ顔で去っていく。
静まり返る廊下。ドットは「勝ったぞ!」と言わんばかりに鼻を鳴らしたが、すぐに膝から崩れ落ちた。
「ドット!!」
アネモネが駆け寄り、彼を抱き止める。
彼女の手から、治癒を促す微弱な毒が溢れ出した。
「馬鹿ね……本当に脳内ガキ。死んだらどうするのよ。万死に値するわ、本当に……」
「へへ……。泣くなよアネモネ。159センチのくせに、俺よりデカい涙流してんじゃねえよ……」
アネモネの瞳からこぼれた涙が、ドットの頬に落ちる。
神覚者にさえ認めさせた、あまりにも無謀で熱い絆。
だが、ドットは気づいていなかった。アネモネの毒が、彼の傷を癒すと同時に、彼女の心に「絶対にこの男を離さない」という、誰よりも深い執着の毒を回してしまったことに。
「……ドット。もう、四時間なんて猶予はやめるわ」
「え?」
「一生、あんたを私の毒で縛ってあげる。……覚悟しなさいよ」
アドラ寮の片隅で、少女は密かに決意する。
それは、恋よりも重く、呪いよりも甘い、彼女なりの愛の宣誓だった
🔚