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のだ
「こんにちは!僕ずんだもんなのだ!」
そうやってデビューした僕・ずんだもん。
昔は地域のアイドルグループみたいなのに所属していたけれど、今はタレントとして人気だ。
僕流の「のだ」という文末が話題らしい。
「僕自身」じゃなくて、「のだ」がらしいけれど…。
僕は髪を緑に染め、いつもは着ない服を着ている。その容姿のおかげもあるのかもしれない。
「今大人気のずんだもんさんは、テレビでも取り上げられています!どうですか?」
「とっても嬉しいのだ!」
そう返すのが、精一杯だった。
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自宅に帰り、姿見を見る。
もう、あの頃の僕じゃないな…
「眠いな。…のだ。」
僕の「のだ」は未だ、くっついて離れていない。
「さあ!今大人気の歌手コンビの登場です!」
テレビをつけると、その番組はやっていた。
「こんにちは、ハツネミクと、」
「カサネテトです!」
「このお二人には…。」
歌手コンビなのに、バラエティ番組に出演しているコンビ「ハサネテク」。親しみやすいと話題らしい。
僕も、「ハサネテク」に負けちゃうのかな…。
大して面白くない。
「ドッキリだいせーこー!」
「あはは、やられたぁ。」
ドッキリに驚かされているハサネテクの目は、僕ら芸能人にしか分からない、笑っていない、《《笑っている風》》の顔だった。
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「ずんだもんさん!」
「どうしたのだ?」
「今回、『ハサネテク』さんとのコラボですよ!」
「そ、そうだったのだ!」
僕は、《《役作り》》のためにずんだもんになる。
僕は、ずんだもんだ。
そう自分に言い聞かせる。
「「こんにちはー!『ハサネテク』です!」」
改めて出会うと、先輩らしさが漂っていた。
「ゲストのずんだもんなのだ!」
僕は、ずんだもんだ。
面白くない台本を進めた。
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ハサネテクさんと同じ楽屋で。
「ずんだもんさん、どう?」
ハツネミクさんが僕に言った。
「楽しいのだ。」
苦し紛れに、そう答える。
「…大丈夫?」
「…大丈夫、なのだ。」
「芸能界ならではの苦しさもあるよね。」
カサネテトさんが、答えた。
「うちも、苦しかったなあ…。」
「カサネテトさんが?」
「そうだよ。じつは、初めはハツネミクだけだったんだ。それに知り合いが悪ふざけして、うちを無理やりハツネミクとグループを組ませた。
もちろんバッシングの嵐だった。分かるよね?
だからさ、辛いんだよ、うちも。いや、《《うちら》》も。」
うち、ら?
「わたしも、ほんとは、辞めたいんだよね。タレントだからこそ、ひどい目にあったりとか、するもん。」
あはは、と笑うハサネテク。
「じゃあ、僕もやめたい。」
「ずんだもんが!?」
「そう。だって、辛い。」
僕は知っていた。
散々すぎるほど、僕のネタ動画が拡散されていた。それに、視聴率も下がりぎみだ。
「そろそろ潮時かな、と。」
「…思い切って、やめようか。」
テトさんがそう切り出した。
「そうだね。わたしたち、もう辞めどきだよ。」
「ありがとう…。」
「…さて、うちたち、所属しているとこが同じみたいだ。一緒に報告しよう。」
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それから、渋られたものの、なんとか辞めることができた。
「ずんだもん。」
ハサネテクに声をかけられた。
「私たち、この卒業のために歌を作ったの。これが楽譜。練習してくれない?」
「…ありが、とう…!」
自然と涙が溢れた__
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特訓してきた。
「ハサネテク、ずんだもんの卒業歌です。奇跡の三重奏となっております!」
生で聴く最後のナレーターの声。
後悔はない。
「「「これがありのままなのだ!」」」
こんな を愛してほしい__