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#6 脅迫メッセージ
『このメッセージに応答しなかったら、貴方の大切な人が壊れちゃうかもね。あ、勿論一瞬で砕け散るわけじゃないよ。少しずつ苦しめるから。早く入れ替わってほしいんだ。あの人と過ごしたいの。失敗作なんて嫌なんだ』
今朝、このメッセージで飛び起きました。隣にはすうっと寝ているインターの姿がありました。ああ、インターはきっとこのメッセージを知らないのでしょう。彼女を壊したくありません。でも、かといって彼女と離れたくはありません。
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「ひぃ、なんか今日はバグ報告が多いっ」
「そうですね。私も全力で対処します」
パソコンの手は今日、休むことを知らない。忘れたようだ。
文字化けにエラーコードが1か月ぶん。明らかな異常だ。しかも今日から、パスワードやIDが流出し始めるウイルスが全国的におびやかしはじめた。
「このウイルス、どうやったら対処できるのですか?」
「えぇ、あんまり見たことないかも。一回書斎に戻って調べる」
身体を滑り込ませ、書斎へ戻る。二桁はある本の中から、ウイルス関連の本を手当たり次第探ってみる。パスワードやIDが流出するのは、チェーンメールの影響か。でも、こんなに広がることはどうだろう。ない気がするけど…
「あっ」
最近開いていなかった、『パソコンウイルス大全集』。そこに載っていた。えーと、こうしてああして…
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『パソコンウイルス大全集』で読んだことをそっくりそのまま打ち込み、ようやく最後のバグ対応が終了した。
「お疲れ様です。私がこんなばっかりに…」
「そんなことないよ、ネットは悪くないもん」
「…今日だけお菓子、解禁しましょうか」
「えっ?」
ネットが差し出してきた。封印していたお菓子類がどっさり。
狸と兎のキャラクターが描かれたきのこの山に、ピンクと茶色のアポロチョコ。ブルボンの黄色いコンソメ味の小さいのと、赤いうすしお味のポテトチップス。アーモンドを包んだチョコレート。ピンクや黄色や緑や紫の小さなグミ。
「ありがと」
適当にポテトチップスをつまんだ。
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〝そんなことないよ、ネットは悪くないもん〟
彼女の言葉が、ちゃんと脳内メモリに記憶されています。
そんなことないのです。私が悪いのです。私が貴方に執着してしまうから、貴方は苦しんでしまうのです。きっと、このバグだってあのメッセージの主がやったのでしょう。
耐えられません。このまま彼女が苦しむさま。でも、かといって私は彼女とともにいたいのです。きっと、アンドロイドがこんな我儘を言う権利はないのでしょう。
彼女を不安にさせたくありません。けれど、このままでは彼女も私も壊れてしまいます。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
必死にバグ対応に追われる彼女の姿を、ぼうっと見ていることしかできなくて。