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青と、ソーダと、あの日。
スファルトから立ち上る陽炎が、世界をぐにゃりと歪めていた。
17歳の夏休み。都会の喧騒から逃れるように、祖母の暮らす静かな田舎町へやってきた僕――蓮は、ジリジリと肌を焼く太陽に降参し、ひなびた木造のバス停へと逃げ込んだ。
「……あつい」
誰もいないと思っていた待合室。しかし、薄暗い影の中に先客がいた。
白いワンピースに、つばの広い麦わら帽子。僕と同い年くらいの女の子が、カチャリ、と涼やかな音を立ててラムネの瓶を傾けていた。
「半分、あげる」
彼女――サキは、ぷはっと喉を鳴らして息を吐き出すと、まだ開いていないもう一本のボトルを僕に差し出した。
受け取ったガラス瓶は驚くほど冷たくて、結露した水滴が僕の指先を濡らしていく。
「……ありがとう」
「いいよ。夏はさ、一人で乗り切るにはちょっと長すぎるから」
彼女は悪戯っぽく笑い、自分のラムネの底を僕の瓶に「チリン」と軽くぶつけた。
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それから、僕たちの不思議な「避暑」が始まった。
約束をしたわけでもないのに、毎日午後2時になると、僕らはあのバス停で顔を合わせた。
サキはいつもラムネを飲んでいて、ときどき遠くの入道雲を見つめながら、ぽつりと不思議なことを言った。
「ねえ、蓮くん。夏ってさ、水の中に潜っているときに似てない?」
「水の中?」
「そう。光がキラキラ反射して、周りの音がどこか遠く聴こえて、胸が少し苦しい。でも、すごく綺麗で、ずっとこのままでいたいって思っちゃうような、そんな感じ」
彼女の瞳は、ラムネ瓶のガラス越しに見る青空と、まったく同じ色をしていた。
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8月31日。夏休みの最後の日。
いつもの時間、いつものバス停。だけど、ベンチに彼女の姿はなかった。
代わりに、木製のベンチの真ん中に、コロンと小さな青いガラス玉がひとつだけ転がっていた。
ラムネの瓶から取り出された、あのビー玉だ。
手にとって、午後の強い光に透かしてみる。
歪んだガラスの向こう側で、緑の山々と、どこまでも高い青空が逆さまに映り込んでいた。まるで、あの夏のきらめきがすべて、この小さな球体の中に閉じ込められているみたいに。
「またね、夏の中で」
ふと、そんな声が風に混ざって聞こえた気がして、僕は振り返った。
もちろん、誰もいない。
ただ、どこか遠くでチリンと風鈴が鳴り、僕の手のひらの中で、青いビー玉が静かに冷たさを主張していた。