公開中
夢想
妙にぷにぷにとした感覚が背中を伝わる。ゴロリと半分寝返りを打ってみると、真下には俗にプチプチと呼ばれているあの梱包材が敷かれていた。
重たい頭を持ち上げて周りを見回してみる。どこか見覚えのある、しかし初めて見るような光景に思考を奪われた。
今自分が足を伸ばして座り込んでいるところから見てすぐ左側には、幼い頃に買った小中学生向けの小説があるのだが、信じられないことに異常に巨大である。十冊以上は積み上げられており、まるで本で作られたビルだ。左手を伸ばすと容易にその背表紙に触れられるほどの距離だった。
伸ばした足元を見てみると、それよりも二回りほど巨大な分厚い参考書が二冊、こちらに背表紙を向けている。自分はこの状況が信じられないまま、さらに頭上を見上げてみた。小学生の頃に父親か母親に買ってもらったリングノートが、今にも倒れてきそうな枝垂れ具合で自分の上に影を伸ばしていた。あのノートにはありし日の落書きや、今となっては黒歴史となっているあんなことやこんなことが描かれている。万が一落下してページが開いたら...なんてことを考えている場合ではない。
やっと状況が飲み込めてきた。今自分は体が縮んでいるのだ。
おそらく自分が乗っているのは己の勉強机の上で、本が巨大になったわけではなく自分が小さくなったということだろう。そうかそうか、物語でもよくあるじゃないか。たとえば不思議の国のアリスとか。
真左の児童向け小説をもう一度見る。不思議の国のアリスが題材となった小説だった。
あぁ、好きだったな。今はそうでもないけど。
なぜあの頃はひどく不思議の国のアリスに夢中だったのか今でも不思議なことだが、兎にも角にも今の状況より奇怪なことは他にない。早く元の大きさに戻る方法を探さなければ。
梱包材の上でバランスをとりながらなんとか立ち上がると、巨大な参考書の上によじ登り、さらに周りの状況を確かめた。
ポケモンの分厚い公式ガイドブック、世界の美しい公園や橋を集めた写真集、ミカグラなんたらというライトノベル、しばらく使っていない実用書、すき家と鬼滅がアニメコラボした際にもらったノート、映画の付録の薄い漫画(薄いとは本来の意味の薄いである)、チョコレートの空き箱にチップスターの空き箱、チョコビの空き箱...
っておい!ちゃんとゴミ捨てろよ!
心の中で自分に叱咤しつつ、この乱れた机の上から降りられる場所を探し始める。
すると机の端の向こう側に、チョコレート色のふわふわとした物体の頭が見えた。近くに歩いて行ってみると、それは日頃から愛用しているハムスターの大きなぬいぐるみだった。
よし、ここから降りればベッドの上に降りられる。机とベッドは接しているのでそこまで距離はない。ぬいぐるみの上に飛び降りればいけるはずだ。
意を決して飛び降りた。
ぬいぐるみの上をポーンと弾むと、思ったより勢いが出たのか高く飛び上がってしまった。足元に灰色の掛け布団が見える。叫びそうになったが、気づいた時にはいつの間にかその布団の中に落ちていた。体が落ちた瞬間、ぼすんと小さく爆発するみたいな音が聞こえた。
命あることにほっと一息ついて顔を上げると、そこにはもう巨大な世界はなかった。
いつもと同じ退屈なサイズの世界が、こぢんまりとした様子でそこに在った。