公開中
駆け込み最終回(8話)
急に駆け足(7話)のつづきです。
自分の元の時代の
ロプタン分校に
ツナグと一緒に戻った僕は
まずはサチの祖父である
インオサの
町会議員への選挙を手伝う
インオサの町制の方針は
誰もが生活や将来の不安なく
暮らせる町とすること
それは
今までも多くの政治家が
訴えてきたことではあるが
その方法論が
他の政治家とは
全く異なっていた
その重要な点は
町が他からの物資が得られなくなっても
独立して存続できること
国が世界が不安定な状況になり
流通が止まっても
町民が飢える心配がないように
歩いて移動できる範囲で
何年も何十年も
持続して生活できるだけの
食糧や物資が供給できるように
すること
町外からの燃料の供給が止まり
農機具が動かせなくなっても
食糧の供給が滞らないようにすること
その手始めとして
町有地の一部を農地とし
ボランティアを募り
出来る限り機械に頼らない
人手による農作業を行う
こうして町民のできるだけ多くが
手作業での農作業に触れることにより
燃料の供給が止まり
機械が使えなくなった時も
通常の農地にも町民たちの労力により
食糧の供給を
絶やさないようにすることができる
町有地でボランティアによって作られた
作物は
町内の生活困窮者に無償で提供する
それで余裕があれば
ボランティアの人たちで
分け合っていく
作物は利益を求めるよりも
様々な事態に対応できるような
多様性を大切にする
人力でもある程度の農具は必要なので
そのメインテナンスも
町内でできるようにする
そんなインオサの訴えは
選挙運動の序盤では
一定の支持を得ることもできたが
子供を選挙運動に使っているとの
非難もあり
結果としては落選する
なぜ子供は選挙運動を
行ってはいけないのだろうか
それはこの国の決まりだからだそうだ
子供たちの
自分たちの将来を考えての行動を
なぜこの国では禁じているのだろうか
そもそもインオサの政策の元は
サチが考え始めたものだった
選挙に落選した理由には
もうひとつの理由もあった
それは
インオサが当選していまうと
落選するであろう
候補者による
インオサに関する
悪い噂の拡散
彼はある企業からの献金を受け
その資金力を利用して
自分のイメージ向上と
インオサへ評判を落とすことに
尽力した
企業から政治家への献金は
民主主義の終焉を
意味するというのに
この国ではあたりまえとなっていた
その議員による
特定の企業への肩入れは
町のなかでの住民間の
格差を広げることになる
豊かなものはより豊かに
そうでないものの
生活はさらに厳しく
選挙には落選したが
声を上げたことによって
多くの仲間を得ることができた
その仲間とともに
インオサと僕達は
頓挫したリゾート計画が残した土地
インオサが院長を務める病院も
その中にあるのだが
そこで機械に頼らない農業を
始めた
来るべき日に備えて
そして後から考えると
当選して
スターオーアイに眼を付けられるよりも
落選してよかったとも思えた
来るべき日に備えている
世界各地でのコミュニティとの
情報交換をするため
僕とシンラツは
スターオーアイを訊ねた
スターオーアイで
僕達は
偶然も重なって
ミチと僕を車で跳ねた人物を見つける
彼は
スターオーアイの息のかかった
検察や医師の鑑定により
不起訴となっていた
彼は事故に見せかけた暗殺の代償として
スターオーアイの市民権を得ていた
それなのに彼は
さらなる上流階級に
入ることができなかったことで
不満だらけの生活を送っていた
帰国した僕らは
ヒカルをボーカルとした
楽曲の作成と配信も始めた
今の文明の危うさに気付き
来るべき日に生き残る人が
少しでも増えるように
また
僕達の文明の滅んだ後も
同じ過ちを繰り返さないよう
生き残った人々の
心に残ってくれることを願って
そのひとつが
遥か先の未来で
人工惑星に暮らす文明で残っていた
僕達の歌
♪
気を付けよう
気を付けよう
自分の心
いまやっていること
いまやろうとしていること
それは他の人の
幸せを願ってのことだろうか
誰かを傷つけることはないだろうか
生きとし生けるもの全ての
幸せを願っているだろうか
それこそがヒトの本来の願い
それこそがヒトの本当の役割
それこそが
自分の心も健康に保つ秘訣
自分の思っていることは
本当に正しいことだろうか
誰かが都合や利益のため
歪められた現実ではないだろうか
都合や利益のためにつくられた
イメージだけに
踊らされていないだろうか
少しでも広く
できるだけ広く
世界を受け入れ理解しよう
気を付けよう
気を付けよう
人々の心
世界の寿命を縮めてしまうような
病に侵されないように
とある時代のこと
車や機械に頼り過ぎた
身体の運動不足
金銭と権力への執着による
心の運動不足
蝕まれている身体と心
自分だけでなく
多くの生物種や
自分自身の文明を死へと追いやる
残念な人たち
気を付けよう
気を付けよう
悪い思いは
小さなうちに
修正しよう
♪
僕達の時代は
この歌詞のようなことを
真面目に実践していたら
生活ができない
そんな状態となるまでに
僕達の社会は
病に侵されていた
だから僕達の文明は
一度は滅びないといけないのだろう
でも
より多くの健康な人たちに
生き残ってほしい
そして
生き残った人々には
この過ちを繰り返して欲しくはない
それがこの歌に込めた
僕達の願い
そしてついにその日は来た
世界中で同時多発する
戦争・内乱・流通の混乱
感染症の蔓延
人口密集地から遠く離れた
ロプカチョは
厳冬期で荒れた日が続いた事もあって
手作業での食糧生産能力を超えるような
人口の流入はなかった
なんの取柄もないこの土地は
侵略や攻撃の対象にもならなかった
ロプカチョの多くの人々は
インオサのグルーブの人たちが
予めシミュレーションしていたように
滅びた文明での職業にかかわらず
人手での農作業に携わった
一部の人たちは
得意分野に応じて
農機具・住居・インフラの
補修に当たった
これらのことは
予めの準備もあり
順調に進んだ
損得を考えずに
自然に助け合える町民たちが
その原動力となった
一番心配していたのは
医療の分野
流通が混乱すると
薬品や医療器具も
いつかは底をついてしまう
そんな時に発見したのが
メスを使わず植物を利用した医療
植物や微生物の力を借りた
薬の製造
それは最初
根っとわーく によって得られた
未来の技術とも思えたのだが
実は
根っとわーく に過去から蓄積されていた
産業革命により
力を得た国々が
滅ぼしていった
多くの名もない文明のひとつの
埋もれてしまっていた記憶
僕達がいた文明の医療より
進んでいたのだが
多様性を無視する人々によって
闇に消されてしまっていた
文明の崩壊から
10年以上も経つと
農機具・建物・インフラの補修も
限界が近づいてくる
そんな問題を打開したのは
インオサの病院に入院していた
精神病や認知症の患者たち
文明が崩壊し
町に車が走らなくなると
交通事故に会う危険性がなくなり
自由に散歩できるようになった
そんな彼らは
植物をよく観察し
特殊な変化をよく見つけ
とても弱い変異種を
助け育てたりしていた
その中で
食糧にするのにもってこいの
蔓性の植物があった
農地を整備しなくても
森の中で農業ができる
刃物を使わなくても
人間の手だけで
農作業が完遂できる
種類もどんどん豊富になり
微生物による助けも借り
栄養・味・食感・香
どれも申し分ない
多くの食事が作られていった
建物も老朽化していったが
住居に適した空間を作る
植物も見つかり
人々の住み替えも進んで行った
そんなこんなで
あの文明の崩壊から
もう30年は経っただろうか
僕は元気でやっている
先の文明で生活していた時には
病弱だった僕だったが
その後はすっかり元気になってしまった
あの滅びた文明は
意識できるかできないかにかかわらず
健康に悪影響を与える
多くのストレスがあったようだ
ロプタン分校の学友達も
みんな元気にやっている
時々みんなで集まって
フードコートライブなんてしている
メインボーカルは
もちろんヒカリ
ヒカリは
蔓性植物による食糧生産の傍ら
いい歳になっても
元気に歌って踊っている
シンラツは
安全・安心で格差を生まない
交通システムの構築に
尽力している
ミズナは食糧の生産
ブウナは食糧の加工をしている
ウアエンは
病気の治療や健康に有用な
植物や微生物の
生成物を研究している
サチは
すっかり美人さんになって
医者をしている
ノテオは
微生物を用いた
建物や乗り物につかえる素材の
生成の研究をしている
トドマもアカマも
立派なお母さんだが
夫婦とも忙しくしている家庭の
子供達の面倒をみている
そして僕は
昼間は
食糧となるつる性植物を育てている
手間がかかっても
多様性を重視し
小さな変異も見逃さないように
気を配っている
夜は
根っこらぼの
ビバーク機能を使って
野宿をするのが好きだ
というか
最近は
毎日野宿している
この広大な森が僕の部屋
神秘的な星空が部屋の天井
このビバーク機能は
本当によくできている
僕の住んでいる地域に生じうる
あらゆる気象条件下で
体表の温度と湿度を
適切に保つことができる
もちろん
昼も夜もツナグと一緒
子供達にも恵まれたが
皆それぞれ
よいパートナーに恵まれ
独立していった
家も土地も財産も
そんな概念は
もう遠い記憶の彼方
隣にはいつも
ツナグがいてくれる
それだけでとても幸せ
あとは雨風・暑さ・寒さがしのげ
健康を維持するだけの食糧があれば
それで十分
家とか財産とかそんなのは
どうでもいい
そんなのは
滅びた文明では
誰かの都合によって
作られたイメージに毒され
執着する人も多かったが
人間の幸せにはあまり関係はない
ツナグと僕の根っこらぼが
完全に融合して
素肌で触れ合えたあの日
もうこれでいつ死んでも
悔いはないと思ったあの日
それからもう40年近くになるのかな
死亡フラグではないかと思えるほど
幸せなことが沢山あったけど
まだ生きている
ツナグとの家庭は
自分の生まれた家庭からは
想像を絶するほど
幸せなもの
仲が良いことが取柄のような家族を持ち
可愛い孫までできた
つらい日々もないわけではなかったが
ふたりで支え合った
ツナグには
とくかく感謝感謝感謝
これ以上なにを望むのだろう
先の文明が滅び
多くの命が失われたのは
悲しいことなのかもしれないが
生き残った人々は
たくましく
そして
幸せに
生き続けている
滅びた文明の多くの人たちは
財産・権力・地位・名声
そんなものを求めていた
それで幸せだったのだろうか
病に侵された人々の都合で作られた
イメージに
踊らされていた
だけのように思えてならない
新しい文明が
過去の文明の過ちを
繰り返さないために
大切なこと
それは
差別や格差の芽は
小さなうちから
摘み取らなければならい
ということ
そうしなければ
また
文明を滅亡に追いやる病に
侵された人々が
自分達に都合のよいイメージを
多くの人々に植え付け
自分達に都合のよい
社会をつくっていき
また文明の滅亡を繰り返すだろう
彼らは
自分の都合のよい社会を作るために
差別や格差を利用するのだから
おわり
このような形で投稿の機会を与えてくださいました運営の方、本当にありがとうございます。
もし読んで下さった方がおらたなら、誠にありがとうございます。
この物語に関しアイデアの使用・リメイク・二次創作・つづき などなど考えて下さる方が万が一おられましたら御自由にどうぞ。一切のおことわりは不要です。