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じゃあ、お言葉に甘えて……
特務課新人の職業体験、第二話。
ユイハside
敦「あ、おはようございます!」
ユイハ「……おはようございます」
鏡花「緊張してる?」
少し、と俺は肩をすくめた。
次の日になり、いよいよ職場体験が始まる。
俺の正体がバレたら、面倒くさい。
気づかれることはないだろうけど、警戒しておかないと。
敦「そういえばちゃんとした自己紹介はまだでしたね。僕は中島敦」
鏡花「泉鏡花」
ユイハ「敦さんに、鏡花さん」
鏡花「敬語じゃなくて大丈夫。私達もそうするし」
ユイハ「じゃあ、お言葉に甘えて……」
それから俺は一通りの仕事の説明を受けた。
一応特務課の職員って設定だし、任務に駆り出されたりはしないだろ。
異能なしの戦闘とか、すぐ死ぬ気がする。
ユイハ「そういえば敦って|組合《ギルド》の長を倒したんだよな?」
敦「芥川と協力してね」
ユイハ「芥川?」
二人に教えてもらって判った。
あの黒衣の兄ちゃんか。
まぁ、俺も協力した二人にやられたんだよな。
あんなに仲が悪いのに、すげぇよ。
鏡花「ユイハ?」
ユイハ「……悪い、考え事してた」
敦「特務課の仕事が始まったら何度も見ることになると思うよ。彼奴、指名手配されるぐらい有名だし」
ユイハ「そんな奴と協力できるとか凄いんだな」
又三郎、と言いかける。
こいつの名前は、敦。
ボスとビルコと一緒に盗賊した又三郎じゃない。
武装探偵社の中島敦なんだ。
かという俺もユイハじゃない。
知っている筈なのに、遠く感じた。
太宰「おはよー!」
敦「あ、おはようございます。太宰さん、今日も入水してきたんですか?」
太宰「もちろんだよ。川で寝癖を直しているのさ☆」
寝癖を直してもぼさぼさの蓬髪なのかよ。
敦「そうだ、太宰さんのことだから昨日の話はちゃんと聞いてませんでしたよね?」
太宰「否定できないけど、なんか冷たくない?」
鏡花「気のせい」
太宰「そっか、気のせいならいいんだけど」
さて、と。
そう云った太宰治は僕の方を向く。
太宰「私の名は太宰。太宰治だ。社の信頼と民草の崇敬を一身に浴す男」
国木田「誰が貴様などに崇敬するものか、この包帯無駄遣い装置」
太宰「あ、国木田君じゃーん」
国木田「貴様、そんなキャラではないだろう」
太宰「あれ、そうだっけ」
信頼のところ否定しないんだな。
太宰「そうだ、君もちゃんと自己紹介をしたらどうだい?」
国木田「……簡単なものは昨日した。名前と年齢以外に何か必要か?」
太宰「異能力とか」
はぁ、と国木田さんはため息をついた。
国木田「見せた方が早いな」
そう云ったかと思えば、あの理想手帳を取り出した。
見えるように万年筆、と書いたかと思えば頁を切り取る。
国木田「『独歩吟客』」
ユイハ「頁が万年筆に!?」
太宰「これが国木田君の異能力。頁に書いた言葉のものを具現化することが出来るよ」
国木田「手帳より大きなサイズのものは無理だがな」
ユイハ「……すげぇ」
太宰「因みに私の異能力は『人間失格』」
太宰が触れた瞬間、万年筆は元のページへと戻った。
俺を消滅させる、異能無効化。
太宰「あまり驚いていないみたいだね」
ユイハ「あ、いや、驚きすぎて言葉にならなくて……」
鏡花「異能ではこの人を殺せない。でも、副次的に発生したものとかは聞く」
太宰「鏡花ちゃん? もしかして私のことを殺そうとしてる?」
鏡花「してない」
太宰「そうだよね。してるって云われたらどうして良いか判らなかったよ」
そんなことを話していると、国木田さんが仕事を再開しながら話しかけてきた。
国木田「特務課の資料で確認できるだろうが、一応社員の異能を知っておいた方がいいだろう。敦、事務作業と並行で付き合ってやれ」
敦「はい」
ユイハ「……ひとまず事務作業がいいか? 雑談しすぎたし」
敦「そうだね。そうしようか」
それから俺は、私にパソコンの使い方をはじめとした色々なことを教えてもらった。
探偵社の仕事は、中々大変だ。
普通の依頼もあるけど、灰色なものも多い。
スタンダード島事件も大変だっただろう。
敦によれば一度やり直してるらしいし。
賢治「お腹すいた……」
国木田「すまん、賢治。もう少し我慢してくれ」
正午になり、お昼休憩になった。
敦「賢治君は怪力の異能者だよ」
賢治「あ、ユイハさんでしたっけ。宮沢賢治です。よろしくお願いしますね」
ユイハ「よろしく」
ナオミ「ユイハさん、良かったら一緒にお昼どうですか?」
ユイハ「えっと……」
ナオミ「谷崎ナオミです。そして此方が……」
谷崎「谷崎潤一郎です。異能力は『細雪』で、簡単に云うなら幻影ですかね」
妹の方は異能なしか。
にしても、距離が近すぎないか?
兄弟なんていないから判らないけど、絶対あの距離はおかしい。
敦「ユイハくん、深く追求しちゃダメだよ」
ユイハ「あぁ、判った」
ま、そんなに興味はないし。
与謝野「おや? 自己紹介でもしてるのかい?」
敦「与謝野女医!」
与謝野「ユイハ、怪我してないか?」
ユイハ「してませんけど……」
与謝野「ちぇ」
ちぇ……?
与謝野「妾は与謝野晶子。異能は治癒だよ」
ユイハ「治癒……!?」
無効化の次に希少な異能じゃん。
流石の俺でも持ったないぞ、治癒は。
毒とか薬を使ったり、一度死なせることはできるけど。
敦「いらっしゃらないから簡単に説明しちゃうね。社長の『人上人不造』は異能制御で、乱歩さんの『超推理』は見ただけで犯人とかが分かるんだ」
ユイハ「ほわぁ……」
なんか、うん、探偵社ヤバすぎだろ。
七人の裏切り者ぐらい、異能も個性も豊かだな。
ということで後書きだね、ユイハくん。
そうだな、ルイス。
今頃だけど後書きは俺たちが話してるだけだ。
多分、最後までこう……なのか?
一応『英国出身の迷ヰ犬』の番外編のはずなのに、僕が出てこないと云うね。
出番欲しいなぁ。
まぁ、次回はあるんじゃないか?
そうだといいけど。
明日は彼奴がヤバい。
彼奴って?
俺が嫌いなやつ。
なんか、ヤバイ方にイっちゃってる。
あー、頭がおかしいってことね。
次回もお楽しみに。