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コンピューターペンシル
自分の部屋に籠る。棚から漫画を取り出し、ページを開く。もう何周したかわからないコマをながめ、ふふっと笑う。
わたしは父譲りで、漫画『ドラえもん』が好きだ。藤子・F・不二雄先生が書いた、|SF《すこしふしぎ》な世界。ろくでもない未来を迎えることになる野比のび太を、未来・22世紀から来たネコ型ロボットのドラえもんが、ひみつ道具を使って助ける物語。
ひみつ道具ひとつひとつが、すごく面白い。時々「なんでこんなのが有るんだよ!」と突っ込みたくなったり、「これ、マジでほしいなぁ…」と思ったりする。勿論、1番好きなのはドラえもんだ。
それと同時に、この『ドラえもん』45巻と大長編すべては、父の形見でもあった。父は2年前、癌により他界した。母はあまり良く知らず、友達にも『ドラえもん』ファンはいない。一度でいいから、ファンと一緒にずっと『ドラえもん』を語っていたい。あわよくば、父と。
一話読み終え、わたしは漫画を閉じた。さて、宿題でもしようか。そう思い、わたしは机の上に目をやった。
「は?」
思わず声が出る。
そこには、白い布があった。
半円の形になった、ポケット。
ずっと夢見ていた、『《《四次元ポケット》》』みたいだ。
漫画を丁寧に棚にしまい、机の方に行く。手触りは普通の布より、少しだけ質感が違う。匂いはない。
中に手を入れてみると、布に当たる感触がなかった。ただ、鉛筆のようなものが当たった。取り出すと、ピンク色に緑と黄色の修飾がついた鉛筆。
何度見たことか。ひみつ道具の中でも有名な、『コンピューターペンシル』ではないか。
『コンピューターペンシル』。自動で宿題や勉強を、すらすらと解いてくれる鉛筆。確か、漫画では最後にジャイアンに取られて、ジャイアンの父に疑われて返されるんだっけ。
「え…?」
学生なら誰しもが夢見る『コンピューターペンシル』。それを、わたしが手にしたのか?
握ってみて、テキストを開ける。『コンピューターペンシル』を握ってみる。すると、数学のテキストに黒が足されていき、意味のある数式になり、埋まっていく。
答えと照らし合わせると、確かに全問正解だった。
「どういうこと、どういうこと?」
理解しがたいその光景。今日は土曜日のはずだ。先程、TVアニメの『ドラえもん』を見てきた。さっきまでなかったのだ。
「え?」
誰かに話したら、漫画みたいに|誰か《ジャイアン》に取られてしまうのだろうか。そんな考えがよぎりながら、わたしは『コンピューターペンシル』を机の引き出しにしまった。もしかしたら『タイムマシン』があるかもしれないという淡い期待は、あっという間に茶色い板がぶった切った。
まあ、難問が出たら『コンピューターペンシル』に教えてもらおう。そう思いながら、わたしは緑の何の変哲もない鉛筆を手にした。
需要?何それ??