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12.同士
気づけば、寮の部屋はすっかり薄暗くなっていた。
「う、うわぁっ…!もう…夜の8時じゃないですか…!」
罪木蜜柑は、時計を見て、悲鳴にも似た声を上げた。
夕食の時間をすっかり忘れてしまっていたのだ。
食堂が閉まるのは9時。
急いで行かなければ、今日の夕食は抜きになってしまう。
罪木は慌てて3DSを放り投げて、部屋を飛び出した。
廊下をバタバタと駆け抜け、食堂へと向かう。
食堂の入り口が見えてきた頃、もう一人の人物と鉢合わせした。
「あれ、罪木さん。君もこんな時間まで、何かしていたのかな?」
そこにいたのは、狛枝凪斗だった。
彼もまた、慌てたような様子で、食堂へと急いでいるようだった。
「こ、狛枝さん…!す、すみません、邪魔しちゃって…!」
罪木がいつものように謝ると、狛枝はいつになく、穏やかな笑みを浮かべた。
「もしかして君も、何かに夢中になっていたんじゃないかな?」
狛枝の言葉に、罪木はドキリとした。
彼が言う「希望」とは何だろうか。
しかし、今回は純粋な好奇心しか感じられなかった。
「え、えっと…わ、私…『ぷよぷよ』を…」
罪木が小さな声で告げると、狛枝は目を丸くした。
「『ぷよぷよ』!!へぇ…あ、僕は
『妖怪ウォッチ3 スキヤキ』をやってたんだ。これも、3DSのソフトなんだけど」
その言葉を聞いて、罪木は思わず笑顔になった。
「えへへ…!こ、狛枝さんも…3DS、なんですね…!」
「ふふ、そうなんだ。でも、きっと『希望』のためにゲームをしてたんだね。」
狛枝の言葉に、罪木は少し戸惑った。彼の言う「希望」の意味は分からない。
誰にも見せない時間をゲームに捧げていたこと、そして、同じ3DSという共通点。
それだけで、二人の間に、ほんの少しの温かい空気が生まれた。
「う、うう…でも、狛枝さんと同じ…3DSで、なんだか嬉しいです…!」
二人は、食堂の入り口で、他愛のないゲームの話をしながら、小さく笑い合った。
時間ギリギリの食堂に滑り込み、温かい食事を口にする。
それぞれの心の中には、それぞれの「希望」があった。
罪木の心には『ペルソナ』が、狛枝の心には『希望』が。
特別な時間と共通の趣味が、一瞬だけ、二人の間に特別な絆を生んだのだった。