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第8話:暴かれる証拠と、氷の罠
シャンデリアの光が降り注ぐ王立ホールの中心で、イゾルデは「氷の令嬢」としての完璧な気品を纏っていた。
水色のドレスは彼女の瞳と同じ色に輝き、隣に立つソーレは、白い礼服にオレンジの刺繍が映える騎士のような佇まいだ。
「……ソーレ、聞こえるわね?」
イゾルデがグラスを傾けながら、微かに唇を動かす。耳元に仕込んだ超小型の魔導具からは、ライルが設置した集音器のノイズが混じった声が届いていた。
『……ふん、あの二人の“生存確認”の証拠……この|魔法写真《フォトマジック》があれば十分だ。体育教師が、魔法薬学教師の腰を抱き寄せて木の上で睦み合っている……。学園の風紀を乱す罪で、即刻追放できる。……それだけではない、彼らが裏で行っている“非合法な家計支援”の出所も、これで……』
ゼノス教頭の、冷酷で悦に浸った声。
ソーレの隣で、イゾルデの指先がピクリと跳ねた。
「……やっぱり、あいつ……私たちの“裏の顔”まで調べてやがったか」
ソーレが低い声で呟く。オレンジの瞳には、獲物を追い詰める野獣のような光が宿っていた。
「いいぜ。証拠ごと、その薄汚い野心を粉砕してやる」
二人がゼノスの待つ奥の談話室へと向かおうとしたその時――。
「――おやおや、主役のお出ましだ」
銀縁眼鏡を光らせたゼノスが、数人の護衛を連れて行く手を塞いだ。
「イゾルデ先生、ソーレ先生。……今夜は実に美しい。特に、その“隠し事”を必死に守ろうとする姿がね」
ゼノスが懐から、一枚の魔導写真を取り出した。そこには、裏庭の木の上で、ソーレの膝に乗って赤らめた顔を見せるイゾルデの姿が、鮮明に写し出されていた。
「……っ!? そんな……ライル君が見張っていたはずなのに……!」
イゾルデが咄嗟に狼狽したフリを見せる。
ゼノスは勝ち誇ったように笑った。
「あの|哀れな生徒《ライル》かね? 彼は今頃、別室で私の部下たちに“教育”されているよ。……さあ、大人しくこの契約書にサインしたまえ。学園を去り、君たちの全財産を寄付するとね」
絶体絶命の危機。
だが、ソーレは鼻で笑った。
「……なぁ、ゼノス。お前、一点だけ計算違いをしてるぜ」
「何だと?」
「……ソーレが、そうれ……『わざと撮らせた』ってことに、気づかないなんて……教頭先生も焼きが回ったわね」
イゾルデが、口角を冷たく釣り上げた。
その瞬間、ゼノスの持つ魔導写真が、パキパキと音を立てて凍りつき、粉々に砕け散った。
「なっ……!? 私の魔法障壁を貫いて凍らせただと!?」
「当たり前だろ。オレの|身体強化《フィジカルアップ》でイゾルデの魔力を加速させたんだ。……それと、ライルの心配ならいらねーよ」
ホールの天井から、ドサリと何かが落ちてきた。
ゼノスの部下たちが、全員「氷漬け」にされて縛り上げられている。
「……先生! 集音器、ばっちり録音できました!」
天井の梁からひょいと飛び降りたのは、無傷のライルだった。
「……ゼノス教頭。あなたが、汚職貴族から賄賂を受け取り、学園の予算を横流ししていた証拠……今、ライル君が持っている魔導具に全て記録されましたわ」
イゾルデが、冷徹な瞳でゼノスを見据える。
「……さあ、どちらが“追放”されるべきかしら?」
形勢逆転。
ゼノスは顔を青ざめさせ、その場に崩れ落ちた。
嵐のような夜会が終わり、帰路につく三人。
「……ふぅ、疲れたわ。……ソーレが、そうれ……『わざと撮らせる』なんて無茶な作戦を立てるから……」
イゾルデが、馬車の中でソーレの肩にもたれかかる。
「でも、最高にスカッとしただろ? ……さあ、ライル。お前はここで降りろ。……こっからは、|大人《夫婦》の時間だ」
「……はい! お疲れ様でした!」
ライルを降ろし、馬車の扉が閉まる。
途端に、イゾルデはソーレの首筋に顔を埋めた。
「……怖かった……。もし、写真が壊れなかったらって思うと……」
「……よしよし。……イゾルデ、お前は最高に強くて美しかったよ」
二人の「生存確認」は、今夜もまた、情熱的な熱を帯びて続いていく。
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