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第9話「Spring Day」
【登場人物】
BTS:韓国の男性アイドルグループ
私:日本生まれ韓国在住の19歳大学生。
(家族構成)両親は中3の頃に離婚し、母とソウルで二人暮らし。
(身長・体重)身長164cm、体重✗kg
(推し)無し
(彼氏)無し
(夢)日本の小学校の先生になりたい。
(好きな色)紫
(趣味)料理、読書、掃除、散歩
(宝物)①両親と撮った最後の家族写真
②中学の頃好きだった男子からもらった腕時計。紫色。
(外見)眼鏡無し。黒髪で、ショートヘア(新垣結衣風)。大抵パーカーとジーン
ズとスニーカー。化粧無し、アクセサリー無し。
(性格)感情をあまり表に出さず、一人でじっくり考えることが多い。真面目 で頑固。滅多に泣かず一人で落ち込むことが多い。
*彼らが使う言葉は、表記は日本語ですが、実際は韓国語を使っています
砂漠は、冬ではなかった。灼熱地獄だった。
電車を降りて、何時間経ったんだろう。振り返っても、もう電車の姿はない。私たちの足跡が延々と続いているばかり。暑すぎて、みんなコートやマフラーは途中で脱ぎ捨ててしまった。テヒョンは下着まで脱ごうとしたが、それはさすがに皆で止めた。
時々岩陰で休み、またすぐ歩き出す。前を歩く七人の大きな背中がぼやける。影は短い。太陽はまだ真上だ。
彼らも、最初は元気100%だった。あっちに行ったり、こっちに行ったり。ふざけたり、お喋りしたり。のんびり歩いていたけれど、皆段々疲れてきて、今はただ無言でひたすら進むばかり。
タオルを巻いた首筋に、ジリジリと太陽を感じる。喉が渇いた。水が欲しい。ああ、思いっきり冷たいシャワーを浴びたい。頭の中はかき氷やアイスや、キンキンに冷えたジュースでいっぱい。他に何も考えられない。口の中は砂と汗の味。頭がぼうっとする。こんなことになるなら、電車の中にいたほうがよかったな。
「アーミ、大丈夫?」
ジョングクが足を止めて、心配そうに聞いてきた。私は頑張って微笑んだ。
「うん、気にしないで…」
ホントは限界だった。
「僕、ちょっと無理かもしれない」
そう呟いてしゃがみ込んだのは、さっきまで、下着を脱ごうとしていた人だった。
「テヒョン…もう少しで、あの木に着くから。それまで頑張ってよ」
ジミンが励ましている。ジミンの声もかなり疲れていることに私は気づいた。
テヒョンは膝に手を当てて、マラソン選手みたいにはあはあ言っている。私はアイスやかき氷が頭から吹き飛んでしまった。
「どうした?大丈夫か?」
先頭を歩いていた長男が駆けつけた。暑い暑いと一番文句を言っていたくせに、結局彼が一番元気らしい。
「くらくらするんだ…吐き気もするし」
テヒョンは目を閉じていた。
「熱中症かもしれないね」
リーダーが汗を拭いながら冷静に言った。ジミンは自分のことのように心配している。でもなぜか、熱中症と聞いた途端、テヒョンは元気になった。
「熱中症?ああ、熱中症か。なら大丈夫だ。僕、毎年なってるから」
そういう問題じゃなかろう。
周りの心配を無視して、テヒョンはフラフラと2、3歩歩きだした…ところで、ばったん!見事に大の字に倒れ込んだ。
「ヒョン!!」
ジョングクが叫ぶ。思わず、私はテヒョンに駆け寄った。うつ伏せに倒れている大きな体を苦労して仰向けにすると、テヒョンはびっしょり汗をかいていた。荒い息で胸が大きく上下し、閉じられた瞳の、きれいな睫毛が震えてる。
「疲れてるんだから、無理しちゃダメですよ」
テヒョンは答えない。眉根を寄せて苦しそうにあえぐばかりだ。あまりにも辛そうなその表情に、私はぎゅっと胸が痛くなった。懸命に自分を落ち着かせながら、私は首に巻いていたタオルで、テヒョンの顔を拭いた。ペットボトルの水につけていたので、ひんやりと冷たい。
「気持ちいい?」
「ああ…ありがとう」
テヒョンはふっと目を開いた。だいぶ楽になったようだ。私は心からホッとした。起き上がろうとするテヒョンを支えていると、ジミンも一緒に支えながら言った。
「アーミー、なんだかテヒョンの母親みたい」
私は曖昧に笑った。
母親、だって。テヒョンはそれを聞いてどんな顔をしてるんだろう。気になる。すごく気になる。すぐ近くでテヒョンの微かな息を感じる。肩にはテヒョンの大きな手。心臓が爆発しそうだった。私は無意識に下唇を噛んでいた。
ジミンが、やっと立ち上がったテヒョンの背中にさっと腕を回したけれど、テヒョンは「いいよ」と短く言って、何もなかったかのようにすたすたと歩き出した。
「ヒョン、えっ、もう大丈夫なの」
ジョングクが六男の早すぎる復活に面食らっている。
「テヒョン、無理しなくていいからね?」
「ゆっくりついてこいよ」
ジンとナムジュンが心配そうに言ったが、テヒョンは軽く首を横に振った。
「いや、もうすっかり元気」
憎らしいほどあっけらかんとしている。さすが、毎年なってるだけある。
「そういえば、シュガヒョンはどこ?」
テヒョンがきょろきょろした。つられてジョングクも、そういえば…とあたりを見回す。
「シュガヒョンって、誰のこと?」
私はそっとジミンに聞いた。ジミンはふわっと優しく笑った。
「ユンギヒョンのこと。シュガは、彼の芸名なんだ」
あ、そうなの。
私がジミンにお礼を言っていると、突然遠くで大声がした。
「ヒョン!!早く来て!」
あれはユンギの声だ。
「なんだ?」
リーダーは声のする方に走った。私達も慌てて追いかける。
ユンギが満面の笑みを浮かべてこっちに走ってきた。遠くの崖のそばではホソクが大きく手を振っている。
「どうしたの?」
私達は次男に詰め寄った。ユンギは柄にもあわず、珍しく興奮している。
「何があった?」
ユンギはその場に停止した。目をひっくり返して、頭を整理しているようだった。
「えっと…その、なんだっけ…」
「落ち着け落ち着け」
ジンが喚く。ユンギは深呼吸して息を整えると、ホソクの方を指さした。
「僕と彼で、あの坂の下に行ってみたんだけどね。テヒョンが具合悪そうだったし、休憩できる場所がないかと思って…」
ユンギの細い指が崖の向こうへふっとおちる。
「それで下までおりた。そしたらすごいものを見つけた」
ユンギはキラキラする瞳で私達を見つめた。
「なに、なにがあったの?」
ジョングクが子どものように叫ぶ。ユンギは黙って身を翻して、ホソクの方に走り出した。
「ついてくればわかる!」
第九話「Spring Day」、今回はちょっと長編でしたが、お楽しみいただけたでしょ
うか?
世界が消えた3日間、まだまだ続きます!!
次回はついに第十話!「砂の夜」です。
お楽しみに😚❤