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8.枢機卿サムエル
「聖女様、面会者がおりますがどういたしますか?」
「誰?」
「神官のサムエルです」
「えーっと……何をした人?」
「聖女様の召喚を行った人物です」
つまり私をこの世界に連れてきた人か。
まあそこまであっちの世界に未練はないけど。
「会ってみたい」
「了解です」
「本日は面会を認めてくださり誠にありがとうございます」
サムエルがやってきた。
あの後、サムエルについていろいろ聞いてみたんだけど……
やはり私たちの召喚を任されただけあって、枢機卿というまあまあ……かなり? の立場にいた。
まず、神殿には司祭という一番高い立場の人がいる。
そしてその下に十人、枢機卿がいるのだ。
だから枢機卿は神殿のトップイレブンだ。
そして、次期司祭だと噂されるほどの人物らしい。実質トップツーでもいいと思う。考えるのが面倒くさくなってきた。
私たちの召喚の際は、わざわざ王国まで来てくれ、今も王国の様子を見るため、ここに留まっている。
それにしても神殿はなんでこんな国で聖女召喚を行うことを認めたんだろう?
分からない。
だが、不自然な気がする。
「いえ、こちらこそわざわざ枢機卿様にご足労させてしまってすみません」
敬語の使い方が分からない。
ご足労させてしまう……っておかしいよね? おかしkないといいな。
「そんな硬くならなくて構いません」
「ですがあなたは枢機卿なのでしょう? 10人しかいない」
「ですが聖女様の魔力ははるかに多く、いづれは我々をも超える権力の持ち主となるでしょう」
「まさか」
いくら召喚されたからと言って、そんなに実力があるわけがない。
「たしかに魔力の質は高いかもしれませんが、魔力量は少ないのでそんなにお役には立てないかと……」
「魔力量がネックなのですか? でしたら増やす方法をお教えできますよ」
「え?」
それは……知りたい……かも。
「あ、その前に軽く自己紹介を。ある程度は知っておられるようですが、枢機卿のサムエルと申します。しばらく召喚の所為で体調不良に陥ってしまい、ご挨拶が遅れました。申し訳ありません」
優雅に敬語を使っている。
羨ましい。
「二人も召喚させていただいたことでいろんな方に注目させてもらいましてね。こちらとしては少し気恥ずかしいのですが……」
まさかの無自覚な天才ときた。
いや、ただの謙遜なのか?
「では、私からも自己紹介を。聖女であるユミです。闇以外の魔法の行使ができます。」
他に何を言えばいいのかな?
「聞き及んでおります。それで、魔力を増やす方法でしたよね?」
「はい」
「神官の間では結構広がっているのですが……一度魔石に自分の魔力を注ぎ込むと、魔力が回復する分と、魔石から少しずつ戻ってくる分が混ざって、倍近くになるらしいですよ。
最も、不良品の魔石からじゃないと漏れ出さなので不良品を使わないといけないのですが……」
ん? 神官の間では広まっているの?
私、やっぱ聖女としていろいろ活躍しているけど、まだまだ認められずにいるのかな。
「それは、魔石に魔力を入れた後、吸い出すのではできないのですか?」
「あまり効率は良くないようです。じわじわ出てくるのがいいんでしょうな、きっと。
あ、そう。その方法で魔力を増やしていってもさすがに数十回目くらいになるとあまりうまくいかなくなるそうですよ。体に合わない多くの魔力を手に入れるからでしょうな」
「ちなみに魔石から魔力が戻るまでの時間は……?」
「量によって変わりますからね。大きい量を一気に入れると戻ってくるまでに数十年かかったりしますし、小さいの魔石をたくさん用意しても一気に帰ってきたらあまり量は増えません。
こればかりは人それぞれなので自分でいろいろ試してみるといいかもしれませんよ」
すごいな。私の魔力は何倍くらいまで膨れるんだろう?
ただ、話を聞くに、これは長期戦になりそうな気配がする。
「ありがとうございます。話をそらしてしまいましたが、もともとの要件は何だったのでしょうか?」
「いえ、僕が召喚した聖女様がどれくらいの方なのかを見ようと思ったまでですよ」
「もしかしてユウナにも会ったのですか?」
「はい」
その顔は、笑っていた。何かを企んでいるような笑顔。
背中に怖気が走った。
サムエルには、少し気をつけてみよう。
ただ、魔力量を増やす方法は使わずにはいられない。
神官の間で広まっているという話だし、そこまで眉唾物ではないだろう。
次の日。
エリーゼの的確な指示のお陰で、色々なサイズの不良品の魔石が揃った。
私一人のためにこんなに集めさせてしまったことが申し訳ない。
それを無駄にしないためにも、ちゃんと魔力を増やそう。
まず、一番小さい不良品の魔石に魔力を流し込んでみる。
が、あまり魔力が減った気がしない。
十分が経った。
これは感覚だけど、もうその分の魔力は回復した気がする。
何だか物足りなく感じる。
もっと大きい魔石を使ったほうがいいかもしれない。
次の大きさの魔石に流してみる。
これもあっという間満タンになったが、あまり減った気がしない。
思い切ってもっと大きいものを使ってみることにした。
こぶし大のサイズだ。
これにも入れた。だけど、あんまり分からなかった。
次はこぶし大から二回り大きいサイズに入れてみた。
程よい喪失感があった。
これくらいがちょうどいいのかもしれない。
そして、エリーゼにそのサイズの不良品の魔石を探してもらった。
一個、魔力を注いだ魔石が空になるたびに次の魔石に魔力を注ぐ。
こうして、順調に魔力は増えていった……かはまだ実感が持てない。
◇◆◇
「サムエル様がお見えになりましたがどうなさいますか?」
「通して」
「了解しました」
エリーゼは本当によく働いてくれている。
「それで、本日はどういった用件で?」
「一人、聖女様の居場所が分かったかもしれません」
「本当ですか!?」
それはおめでたいことだ。
だけどそれと同時にこの世界のことが心配になる。
「その聖女様はいつ頃さらわれた聖女様なのでしょうか?」
「分かりません。ただいま調査中です」
この世界は腐っているのだろうか?
国をも超える権力を持つ神殿が何年もかかってやっと聖女様を見つけるだと?
こんな世界で、聖女として……
あれ? 今私何を考えたっけ?
この世界で……
あとで思い出そう。
何かが引っ掛かった気がする。
「それで、何の用でしょうか?」
「聖女様奪還のお手伝いをしてもらいたくお願いに参りました」
「断ることは?」
「あまり好ましく思われないでしょうね」
別に好ましく思われる思われないはどうでもいいんだけど……
「どの道断らせてくれないんでしょう? 行きますから安心してください」
ただ、サムエルのお願いでいく、というのはいささか嫌な予感がしなくもないな。
気を付けるに越したことはないだろう。
「ありがとうございます。この奪還が上手くいけばそれ相応の報酬もありますので。結果を楽しみにしています。
明日の会議への参加はできますか?」
「エリーゼ、明日は?」
「孤児院に行く予定でした」
「会議はいつでしょうか?」
「昼からです」
「だったら構いません。エリーゼもいい?」
「はい」
エリーゼとしても少しは滞在時間は短くなるものの、それは早く行けばいいだけだ。
ちょっと不便を強いることになるけど、基本的には大丈夫だと思う。
「では、そういうことで。僕は帰ります」
「どうぞ」