公開中
夜の静寂にハーブティー
⚠この題名を見たことある、と思った方へ⚠
この小説は、私が別サイトで投稿したものをそのままこちらに乗っけたものとなります。同一人物ですので安心してください。また、どうしても同一人物という証拠が欲しいのでしたら、私に連絡ください。
「睡眠薬を切らしてしまった。」
夜の11時。静かなノックをして入ってきた|谷崎《タニザキ》の目の下には、薄い隈ができていた。
「…ドラックストアは。」
「ついこの間、24時間営業が終わってしまったんだ。悪運が巡ってしまった様だね。」
谷崎はそう呟くと、力なさそうに|応神《イラガミ》が寝ていたベッドに腰を下ろした。シーツのしわが谷崎のほうへ沈んでいくのを見た応神は、ベッドからのっそりと起き上がり、谷崎の横に並ぶ。背中が丸まった谷崎を見て言った。
「本当に睡眠薬が無いと寝れないのか。」
「はは、|薙《ナギ》くんは良いよねぇ、びっくりするほどに健康体だ。」
「お前が不健康すぎるだけだ。」
「笑えないなぁ。」
「うるせぇ、事実だ。」
応神が静かに笑う。すると谷崎は、少しむすっとした表情で応神の腕を強くつねった。
「い‟!…っっつ。」
応神が、しかめっ面をしながら勢い良く谷崎を見る。薄暗い部屋で、応神の金色の目がよく光った。
「…ふ、どんな痛がり方なんだ、君は。」
「人の腕をいいきなりつねるなんてガキみてぇなことをすんのは、お前だけだろうな、|翔一《ショウイチ》。」
お互いが顔を見合わせた状態で、数秒間硬直する。強く張っていた糸が切れたように、応神がため息をついた、
「…んで、俺の部屋に来たとしてどうする。何かしてほしいことでもあんのか。」
「特に無いから来たんだ。君と話せば時間は埋まるだろう?それに、君ならなにか知っていることもあると思ってね。」
「俺は不眠症なんかになったことはねぇぞ。」
「ほら薙くん…毒消しの術とかあっただろう?何かそういうのはないのかい。」
「あれは昔から教えられてきたことだからだ。俺の術は魔法じゃねぇからな、なんでもできるわけじゃ無いんだ。」
「はは、そうか。」
谷崎は乾いた笑い声を出す。応神はそれをチラと見て、横においておいたスマホに手を取った。
「何をする気だい?」
「なんも出ねぇなら調べるしか無いだろ。」
そう言いながらスマホを起動させた応神は、“寝れない時 どうする”と手際よく検索欄に打つ。
「随分と抽象的なキーワードだね。」
「人の画面を勝手に見るな。」
応神は谷崎に背を向け、検索結果を黙々と見ていった。
「…“ぬるま湯に30分浸かる”」
「風呂はあまり好きではない。今日はもう既に入った。」
「当たり前だろ…“軽い運動”」
「今日の任務は運動に入らないのかい?」
「外でて死体をまじまじと見ただけだろ。多少歩いたぐらいで、使ってんのは頭だ。」
「辛辣だなぁ」
谷崎は口元を隠しながら、応神のスマホの画面を見た。
「ふむ…“冷たい飲み物を飲む”だってさ。深部体温が下がることによって入眠しやすくなるらしい。カフェインが入ったものは駄目だって。」
画面を見られたことに少々嫌気も感じたが、応神は頷き、スマホの電源を落とした。
「家にハーブでもあったら、冷たいハーブティーにでもするか?」
谷崎はおぉ、と軽く歓声をあげる。
「バッチリあるよ。薙くんよろしくね。」
ニヤニヤしている谷崎をみて、応神は眉間にしわを寄せる。
「待て…茶を入れるならお前のほうが上手いだろ。」
「僕がちゃんと教えたでしょ?」
「お前は俺をこき使うために教えたのか。」
「まぁまぁ。」
谷崎はクスリと笑い、よっこいしょと言いながら立ち上がる。どうやら感が当たった様で、早速こき使われる、と不快感に包まれながらも、応神は何とか立ち上がった。
自室のドアを開けると、吸い込まれそうな暗闇が広がる。だが、パチ、とスイッチの乾いた音がなると、暖かい色が広がる。
「廊下は冷房が聞いていないのかい、暑い。」
「冗談言うな。」
二人は裸足だった。ペタペタと音を鳴らしながら、階段へと歩いていく。電気をつけるのは応神、消すのは谷崎と、自然な分担もできた。
階段を下りると、マンションに作られたとは考えにくい、開放的なリビングが広がる。上の階とは吹き抜けになっていて、これが開放的に見える理由だろう。谷崎は、元々ここに住んでいたから、応神は、実家が平安から続く大きな名家であることから、特に思うことはなかった。応神はキッチンへ、谷崎は食事用のテーブルへそれぞれ向かう。
棚をガサゴソとあさっている応神を、谷崎は椅子に腰を掛けじっと見つめていた。仕事中の彼のほとんどは、サングラスに黒のロングコートに黒の手袋に…と、全身が黒で統一されている。子供が見たら泣く。というか、既に泣いている子供がいた。そんな服装で堂々と民間バスに乗るような奴だ。そんな奴が、今はサングラスをかけずに、白いパジャマに (なぜつけたかわからないが)エプロン姿でキッチンに立っている。仕事だとわからない、鋭い目がよくみえた。おそらくこの状況は、ルームシェアをしている自分か、彼の過去を知っている者だけだろう。まぁ、レアなことに変わりはない。
「…薙くん、髪は結ばなくていいの?」
「作って飲むだけだから良いだろ、別に。」
「面倒くさいなら僕が結んでやろうか。」
「余計なお世話だ。」
会話の合間合間に、カランと、ガラスの音が室内に響く。暫くすると、2つのティーカップがテーブルの上に並べられた。
「種類は。」
「オレンジフラワー。少し苦いらしいからはちみつも少々。寝る前にいいとあった。」
「嫌々言ってた割には工夫してるじゃないか。」
「お前が寝れねぇからだろ。」
応神はそう言って、谷崎の前にいそいそと座る。柑橘系の爽やかさと、はちみつの甘い匂いが辺りに充満し始めた。
「さて、お味は。」
「変な味しても何も言うんじゃねぇぞ。お前が押し付けたことなんだから。」
そして二人はティーカップの持ち手に手をかけ、自分の前に持っていく。ティーの香りがより一層強まっていった。谷崎はカップの淵に口をつけ、中の液体をゆっくりと堪能していく。
「…案外美味しい、やるね。」
穏やかな味と甘みが丁度いい。谷崎は、そんなことを思いながらポロリと口にしていた。
「何様のつもりだ。」
「同じ家で過ごすものとしての様、だね。」
「関係ねぇだろそれ。」
応神が、とても小さく笑い声を漏らした。谷崎もつられて少し、口角を上げる。ハーブティーの香りと少しの会話が、静かな夜に緩和されていく。
「それで、今日は寝れそうか?」
「まぁ、リラックスはできたようだね。恐らく寝れると思う。」
「そんなんで寝れるんだったら、睡眠薬要らねぇだろもう…」
「今日は特別なんだ、たぶん。」
なんでもない日常。だけど、それはいつもより心地が良かった。
橙色が灯るリビング。夜の静寂にハーブティー。
ライセンス表示
タイトル: エージェント・応神の人事ファイル
作者: RainyRaven
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/author:rainyraven
作成年: 2019
ライセンス: CC BY-SA 3.0
タイトル: 文学
作者: 2MeterScale
ソース: http://scp-jp.wikidot.com/author:2meterscale
作成年: 2019
ライセンス: CC BY-SA 3.0
なにか不備があったらお知らせください。