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たぶんわたし、ラノベの主人公になりそうです。
…どうやら、後をつけられているようだ。変態か?ストーカーか?嫌な方向に考えがよぎる。防犯ブザーをぎゅっと手にして、ちょっとだけはやめに歩く。
あ、失礼しました。わたしは|本野佳代《ほんのかよ》、小説家志望のごくごく一般的な小学6年生でございます。運動は大の苦手ですが、勉強は上らへんです。
わたしが通る通学路は、人がいないに等しい。それに、細い通路。常にお墓と隣り合わせで、なんだかちょっとねぇ…というのも感じているが、まあ今は祟りの影響は皆無。
足音と気配。あー、祟り?いやそんなことなかろう。お前誰やねん!と言ってやりたい。小説家志望で勉強ができても、イコール陰キャという方程式は成り立たない。近畿辺りに住む、明るい会長候補系の関西弁女子。そんなところだ。
「ねぇ!」
「お前誰や!防犯ブザー鳴らすぞボケェ!!」
時刻は17時、逢魔が刻ヒェッ…ではなく、普通に15時。失礼、ちょっと暴言。
「ついてきよってさァ!ストーカーかお前?逮捕されたいんか?あ゙ぁ゙!?」
「いや、ごめんって。俺だってこんな無理やりやりたかったんじゃ…」
「理由がどうあろうと、人がそう感じたなら重罪やねん!覚えときぃや!!」
わたしは走りまくる。だが、ものの1分足らずでギブアップ。普通に男子に追いつかれた。
男子を見てみると、一人称の割にはおとなしそうで、黒髪がよく似合う。青いパーカーに黒い長ズボン。怪しい…
「なんや?これ、鳴らされたいんか?」
わたしは防犯ブザーをつっつき、チャラチャラと見せてやった。
「いや、そういうわけじゃないんだって!」
「じゃあなんなんや!やましいことないんやろ?早う言うてみ!!」
静かな墓地に、2人。うち1人はおとなしそうで、うち1人はゴリゴリの方言でまくしたてる。うん、もう知らねぇ。
「あの、本野佳代さんですよね?」
「なんや、そうや。やからどないしたんやって聞いとんのや!このストーカー野郎!!」
「ちょっと待ってくださいよっ。俺はマツキハヤト、松に木材の木に、ハヤトは片仮名で松木ハヤトです」
「青春ストーリーちゃうんやから、片仮名なわけないやろ、白状してみぃ!!」
「ひぃっ…本当ですから!パートナーさぁん…」
まずい、と思ったのか、ハヤトというストーカー野郎は口を抑えた。
「パートナー?なんのことや?お前みたいな奴とは結婚とかせぇへんで?」
「いや、違うんです…あの、貴方、文才をお持ちなんですよね?しかも、神様から授けられたような」
確かに、わたしの趣味は小説執筆。自慢の文才と語彙力で、恋愛系覗く社会風刺ものから青春ストーリーまで、見事に書き上げる。
「助けてほしいんです、どうか!じつは俺、異世界から…」
「転生はせぇへんからな!!トラックに轢かれるのもごめんや!」
そう言って、わたしは防犯ブザーを握りしめながら帰路につく。ああもうウンザリだ。異世界転生だか異世界転移だが知らないが、一切興味がない。
ただ。
…顔はちょっと良かったかも?
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あの顔だけストーカークソ野郎から逃れた翌日。友達の|桜野美代《さくらのみよ》が言ってきた。
「あ、佳代ちゃん、あのハヤトって知らない?片仮名で」
ぎくり、とした。ガチだ。片仮名のハヤト?ひとりしかしらない。あのストーカー変態クソ野郎のことだ。同い年ぐらいだが、童顔でとかは全然あり得る。
「それがどうしたん?」
「いや、転校してくるんやって」
「は!?」
嘘だろ嘘だろ、こういうのは大体テンプレがある。
①おざなりな出会いをする。
②転校してくる。
③色々する(ここが小説の本編)
④結ばれる(!?)
おいちょっと待て、ふざけんな?聞いてねぇぞ、あんな顔だけストーカー変態クソ野郎と結ばれるとか。それだったらまだクラスの男子と結ばれるぞ?
イスに座り、ため息をつく。わざとっぽく。独り言?言うわけ有るまい、小説みたいに。そんなのしたらたちまち噂される。
「松木ハヤトです」
うん、知ってた。昨日とまるっきり同じ。
そして、終わりを迎える。なんとなんとなんと、隣の席は空席だったのだ!佳代、人生終了のお知らせ通知。
あーもうテンプレ通りだ、ちっとも面白くない。ここで文才パワー!!とかでハヤトを投げ飛ばせれば、なんといいことだろう。
ハヤトのほうも、うっとしていた。気づいたのだろう。あんな関西弁暴言女子の隣なのだ。どちらも速やかに席替えを望む。顔だけはいいから、たぶん女子に質問攻め。これもテンプレ。テンプレどおりの人生?ふざけんなっ!!
休み時間、わたしはそそくさと美代のほうへ向かう。
「どうしたん?」
「いや…」
もごもごと口ごもる。ハヤトと知り合いなんて、面倒くさくなる予感しかしない。フラグ。それ以下でもそれ以上でもなんでもない。
そう言って、5分前になって仕方なく着席した。
「あのぅ…」
「なんやねん」
苛立ちを交えながら言う。
「文才があるって聞いて。ほら、コンテスト」
うちの学校には、小説コンテストもどきがある。回覧板に載せられるが、小説を投稿するのはごく一部。わたしは勿論投稿したが、他には誰もいなかった。
「国語教えてくれないですか?僕、国語の成績壊滅的で」
「…はぁ?」
パラパラと期待が崩れていったのを感じた。
「なんで片仮名でハヤトやねん」
「あ、それですか?それなのに親はなんか漢字に凝りまくってて、僕にも書けないしフォントもあんま対応してない漢字使ってハヤトなんです。だからもう面倒くさくって」
「なんや…」
てっきり、なんかラノベの主人公になったかとも思った。すべて杞憂らしい。
次はホラー・ミステリー・サスペンスと三拍子揃った小説の主人公になってみたいものだ。
すみません、忘れてました!
ユーザー名:むらさきざくら
作品名:たぶんわたし、ラノベの主人公になりそうです。
こだわり:けっこう小説とか読んできたんですけど、個人的にこんな展開見たいなっていうのを詰め込んでみました。
要望:名前のリクエストしてほしいです。