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第四話:破れた和傘
呉服店「真壁屋」の店主・真壁文雄は、静かに語り始めた。
「店の奥に、誰にも売らんと決めた傘が一本ある。色は藍、柄はぼたん。ところがな、雨の日になると、傘が店の裏口から消えてることがあっての…」
その傘には奇妙な言い伝えがある。ある女性が買ってすぐ失踪し、傘だけが戻ってきた。その後、雨の日に店の裏に濡れた足跡が残るようになった。返されるたび、傘には破れが一つずつ増えているという。
文雄は続ける。
「この間、傘の柄のタグが変化しとった。にじんだ文字が浮き出て、“大澤陽一”——わしには見覚えのある名じゃ」
その夜、灯籠会館に集まった町民の間に不穏な空気が漂った。翌朝、呉服店の裏口には濡れた傘と、靴跡がひとつ……店の誰も見たことのないサイズだった。
短くてすいません