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ひとりぼっち - 居残り林間学校2 -(6話)
おいてきぼり? - 居残り林間学校 1-(5話)のつづきです。
軽くジャンプしたノテオから連鎖するように
ノテオと手を繋いでいた新しい学友達も
先生も
皆消えてしまった
あるのは森だけ
乗ってきたモノレールの車両も
どこかへ行ってしまった
僕はその場で独り立っていた
多分かなり長い時間
そしていつのまにか歩き出していた
なにのあてもないままに
森の中を
なにも考えずに
というか
しばらく
なにも考えれなかった
ここ数日
あまりにも沢山の
新しい出来事が起きすぎた
そしてあまりにも沢山のことが起きたのは
ここ数日だけではなかった
それは物心ついた時
いや
生まれた時から始まっていた
のかもしれない
そもそも僕は
自分の両親が苦手だ
はっきり言うと嫌いだ
育ててくれた恩を
どうのこうの言う人も多いが
両親が僕を育てたのは
世間体を保つためだったようにしか
思えない
道徳では両親を大切にするよう
教えているが
それができるのは
両親とよい思い出のある人
だけのような気がする
嫌な思い出満載の自分は
どうしたらよいのだろうか
僕の両親は
とある宗教にのめり込み
そして
精神が蝕まれていった
そして
僕自身の精神も疲弊していった
そこの信者であることで
他人よりも優れた人間でなければならない
プレッシャー
信者どうしでの
どちらが信心深いかの競争
宗教は
そこに所属していることで
自分は特別な人間だと
思わせようとしていたが
おちついて考えると
それは精神への
負荷でしかなかった
宗教は
誰も確認することのできない
死後への恐怖を植え付け
それから逃れるために
自分達の言いなりになるように
信者をコントロールしていた
問題は宗教だけでない
将来の夢は
といわれ
やりたいことはあっても
それじゃあ生活はできないね
と
結局はお金を儲ける話になってしまう
たとえやりたいことが
人々の役にたつことで
お金の儲かる話が
社会を悪い方向に持っていく
ことであっても
社会の中で
自分がよりよく評価されるために
本心を隠して
表面をつくろうことが
習慣となっていた
学校でも宗教の集会でも
自分の気持ちに従うよりも
社会でよりよく評価される方法を
教えられていた
僕も
親は嫌いだったが
親を敬っているようにふるまっていた
親を大切にしないと
社会の中で生きていけない
そんな不安感もあって
自分をとりつくろい
そのうち
自分でも親を大切に思っていると
自分自身を思い込ませていた
それらのことのためか
僕はずっと
疎外感を感じ続けていた
なにに対する疎外感なのだろう
両親
それとも
学校
それても
友達
それとも
社会全体
でも
ミチだけは違った
ミチとは
一緒にいなければ
とても会いたくって
一緒にいると
とても落ち着いた
でも
そのミチも
‥‥
ミチを失い
自分も巻き込まれた事故
そこで残された物から
たどり気づいた
社会のさらに深い闇
そしてまた転校
やっぱり疲れた
とても疲れた
僕はいつのまにか
岩を背もたれに
地面に座っていた
地面って
結構
心地よいものなのだ
もうこのまま
なにが起きても
かまわないと思えてくる
モノレールから降りた場所から
無意識に歩きだしてしまったようだが
モノレールが走っていたのは
どの方向だっただろうか
全く思い出せない
この森には
ヤケカミとか熊とか
危険な動物もいるようだが
そんなのも
どうでもよく思えてくる
いっそのこと
彼らに食べられてしまうのも
よいかもしれない
そうすれば
あのやせ細った
ヤケカミの子供の
命が繋げるかもしれない
僕はそのまま横になる
そしてなにも考えないことにした
心地よい
視線の移動を誘う
木々の枝ぶり
透けてくる光から
空の青さと広さも感じさせる
葉の緑
木も森も前から好きだったが
こんなにも綺麗だったのだ
ミチが
森を好きだった理由も
わかる気がすr
‥‥
眠ってしまっていたのか
眩しさに
僕は意識を取り戻す
太陽は低い位置で
木々の密な葉の多い部分を避けて
疎な幹の間から僕を照らしていた
朝日なのか
夕日なのか
しばらくじっとしていると
太陽はさらに高度を下げてくる
夕方のようだ
綺麗な夕焼けを見れる場所を探したい
そんな衝動で
僕は立ち上がる
身に着けている 根っこらぼ が
少し重くなったように感じる
それでも動くのに不自由さは全くなく
逆にこのまま ここで 夜を迎えても
大丈夫との不思議な安心感があった
僕は大きな岩の上の
小高くなっている場所を見つけ
登っていく
その場所についた時には
ちょうど太陽が半分
樹海の続く向こうの丘陵に
隠れ始めていた
天頂も太陽と反対側の空も
高層にのびのびと広がる
薄い雲が
赤く染まっている
太陽の全体が隠れると
全天に
色彩のグラデーションが
広がる
この美しさは
言葉にできないだけでなく
言葉にしようとしない方が
よいのかもしれない
星がひとつ
ふたつ
と見え始める
少し寒くなってきた
かもしれない
おしっこ
にも行きたくなってきた
そうだ
このまましても
よかったのだ
せっかくなので
先ほど夕陽が見えていた
眺めの良い方に向かい
背筋を真っ直ぐに立って
すっきりとする
ガベッジポーチは
そのうちどこかで
回収してもらえばよいはず
と腰の周りに手をあてて
ガベッジポーチを探すが
どうもはっきりしない
そういえば
喉も乾いてきたかもしれない
食事は数日取らなくても
なんとかなるが
脱水は短時間で
命にかかわる
しかし辺りはもう暗くなっていて
水場を探して歩きまわるには
危険の時間になってしまった
まぁ
それならそれで
よいのかもしれない
そんなことを考えていると
顔面も覆っている 根っこらぼ の
口の横の部分より吸い口のようなものが
出てくる
その先端を
思わず指で口の中に押し込み
吸ってみる
水だ
おいしい水
ガベッジポーチが形成されなかったことも
考えると
自分の尿が浄化されたものなのだろう
先ほど眠っている間に
根っこらぼ が少し重たくなっていたが
ビバーク用のオプションが
追加されたのだろうか
森の中で寝ていただけなのだが
根っこらぼ に蓄えられている
水の量も
なぜか把握できる
それは数字ではなく
言葉で表現するもの難しいが
感覚として
明日明るくなって水場を探すまで
十分満足というほどではないが
体調を崩さないために必要な量
といった感じ
風も少し出てきたので
風の弱い岩陰を探して
横になる
空はさらに暗くなり
星の数も増えている
根っこらぼ は
地面との間で
程よい感じのクッションとなり
外気との間で
適切は保温効果を発現する
先ほどから
いろいろな虫たちが
身体にとまったり
近くを通り過ぎたりしているが
根っこらぼ が全身を覆っているので
刺されたり
かぶれたりする
心配はない
このままゆっくり星でも眺めy
いつの間にか眠っていた僕は
夜中に物音で目を覚ます
夜中に悪夢以外で目を覚ますのは
あの事故以来初めてかもしれない
どんな夢を見たのかは
思い出せないが
ミチとの穏やかな記憶の夢
そんな夢を見ていた気分だ
物音は
小動物が動き回っているのだろうか
なんだかほほえましく感じる
眼だけを動かして
辺りの様子を探る
星明かりで
森の中も
うっすらと見える
今度はもっと大きな動物が
近づいて来る
大型の犬のような感じ
ヤケカミなのか
数匹の群れのようだ
身体は動かしていないのに
鼓動だけが早くなる
黒っぽい身体に
白い牙が
星明かりで
浮かび上がる
ヤケカミは
もう僕のすぐ横に来ている
一匹が僕の
匂いを嗅ぎはじめる
そして
もう一匹も
最期のときが来たのか
いよいよ
というべきか
やっと
というべきか
ミチと一緒の事故で
出血で意識を失うのは
意外と苦しくなく
むしろ
変な高揚感のあと
すっと意識がなくなることは
経験済み
今回もそんな感じで
もう
いろいろ疲れたから
新しい学友もできたが
かといって
なにかできるわけでもないし
このまま最期で
それでよいかな
(つづく)
つづきは12月3日公開の予定です。