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ラズリ 第5話 夜明けへ1
5年ほど経つだろうか。
久しぶりなのによくわかる。
「…柘榴?」
小さな声は少女には聞こえないらしく、戦闘の音でかき消されてしまった。
「エメル…?エメルっ」
その言葉に優里はハッとする。
(こんなところにいるわけない。それより先にエメルさんが…)
レイルとタクによって壁際で休まされてるエメルを見る。
(腕…?)
エメルの腕には刃物で切られた大きく深い傷がついている。
(でも…その割には苦しそう…ひょっとしなくても、毒?)
優里はエメルの方に駆けた。
「大丈夫ですか…?」
エメルは頷いたが、絶対大丈夫ではないだろう。
「舞さん、加勢します。」
腰元の短剣を取り出すと、舞の返事も聞かずに優里は突っ走った。
あたりは土煙で特に何も見えない。
タッ
わずかな音を頼りに舞を探す。
カキンッ
「舞さん!」
優里が走り出すと、舞の声が聞こえた。
「馬鹿っお前そっちじゃっ」
キンッ
(あ…。死ぬなこれ。)
敵のと壁の間そして首の横に剣。そして頭は動かないように腕で固定されている。
「やっぱり、柘榴…」
少女は「何で知ってるのー?」首を傾げた。
「その剣…。毒…?」
「よくわかりました〜!!」
少女はにっこり笑うと説明をする。
「これはねえ。鈴蘭の毒だよ。解毒剤は私が持ってる。」
「え…」
昔聞いたことがある。
欧米の少女が、鈴蘭の刺さっていた花瓶の水を飲んで、中毒死した話。
接種すると頭痛や吐き気、めまいがひきおこるらしい。
「柘榴…僕、優里。覚えてない?」
「ちょっとわかんないなあ…」
空気が重くなる。
パンッ
少女が手を叩いた。
「お話はここまで!」
(いまだにげなきゃ)
だが、体が動かない。反射的に右腕を見ると、ほっそい傷がある。
優里は壁に背中をつけ、気力なく床に座り込んでしまった。
柘榴は優里の前にしゃがむと、ニコッと笑う。
「舞さんだっけえ?動かない方がいいよ。」
「なっ…」
柘榴はもう一つ剣を出し、優里の左胸に突きつける。
舞だって殺し屋だ。見捨てることくらい、簡単だろう。
だが舞固まったまま、武器を落とした。
「はい。ご褒美。」
柘榴は解毒剤を舞の方に滑らせる。
舞はそれをエメルの方に投げた。
「使え!」
「は、はいっ」
沈黙…。
かこんっ
何かが落ちる音がした。
舞が振り返る。
その瞬間柘榴が走り出す。
「舞さ…」
声が出ない。
「うるさいなあ。」
「優里っ!!」