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最後の流星
高尾山の頂上で、百合は星を待っていた。 ――“流星が落ちるとき、願いを唱えれば、その願いは叶う” 祖母が幼い頃に語ってくれた、古い伝承。百合はそれを半信半疑のまま、今夜に賭けていた。
その願いとはただひとつ。 亡くなった弟・蒼を、もう一度だけ抱きしめたい――。
夜十時を過ぎても星空は曇っていた。気温は下がり、彼女の頬は冷え切っていた。 「やっぱり、信じても意味ないのかもね」 呟いた直後、不意に雲が割れ、夜空が開ける。ひと筋、空を裂くように光が走った。
百合は反射的に叫んだ。 「蒼に会いたい!」
流星は彼女の願いを受け止めるかのように、静かに闇へと消えていった。
数秒の沈黙――そして、目の前に、小さな影が現れた。 白いパーカーにジーパン。見覚えのある後ろ姿。
「……蒼?」
少年は振り返った。その顔は間違いなく、彼女の弟だった。 「お姉ちゃん。お別れを言いに来たんだ」
百合の目に涙が滲んだ。「会いたかったよ……!」
二人は言葉少なに肩を寄せた。冷たい空気の中でも、その温もりは確かだった。
「願いは叶ったんだね」 そう言い残して、少年はゆっくりと霧のように消えていった。
残された百合は静かに空を見上げた。雲がまた広がり、夜空を覆っていく。
そして、ひとつだけ確かになったことがあった。 それは“奇跡は、信じた者にしか訪れない”ということ。
これからは一話完結を書いていこうかなと思います