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春だね
ざつ
「春だねー。」
桜の木を見上げながら私は言う。
「リツナは西高、行くんでしょ?」視線を、隣を歩くリツナに動かして訊ねた。リツナは薄い黄緑色の瞳を私に向けながら頷く。私はその瞳が好きだった。どこまでも透き通っていて美しい。
「そう。ミナミは緑丘高校だよね、制服がかわいいところ。」
吐息のようで消えてしまいそうだけど、どこか芯のある声だった。私はその声も好きだ、耳触りが良い。「でも私よりもリツナのほうが似合いそう。」「そう?」「そうだよ。それに私は、西高の制服のほうが可愛いと思うし。」私の第一志望は西高だった。偏差値62、制服は今と同じようなセーラー服だ。偶然リツナも西高を志望していたので、2人で受かったらいいねという話を何度かした。けれど結果は、私だけが落ちた。仕方のないことだった。模試の点数も良いとは言えなかったし、テスト当日もひどく緊張していたから。それでも第二志望の緑丘高校には受かっていた。なので私は、今年の4月からそこに通うことになっている。
「手紙書こうよ。」リツナは静かな声で言った。「別の高校だし、会う回数とか減るだろうけど、やり取りは続けたいし。」私は背の低いリツナをみおろした。たぶん、150cmもないんじゃないだろうか。
「連絡先交換してるのに、手紙?」「…あ、たしかに。」「え、忘れてたの?」「一瞬。」ふっと笑いがこぼれる。ネガティブでもなんでもなく、リツナはいいなと思う。その性格が好きだなと思う。結局私は、勉強でリツナに置いていかれても、彼女のことが嫌いになれない。
「じゃあ、毎日メッセージ送るからね。」
「うん。」
風が吹いて、桜の花びらが光に滑るように舞った。私とリツナの入学式まで満開でいてねと、自分勝手だけど、心の中で願った。
ざつ