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魔術師とオオカミ
次の町に向かうにはここから先2つ程山を越えなければならない。そのために必要なものは何か。そう、お金と食料である。途中いくつか村があるので食料はどうにかなるかもしれないが、金銭面はどうにもならない。自力で稼ぐしかないのだ。そこでアリフェは考えた。が、なにも考えつかなかった。
それから数日、1つ目の山を越えた辺りの森で今日は野宿することにした。拓けた場所で焚き火の火の管理をしながら星を眺めていると茂みの奥で何かの気配がする。手元にはさっき料理に使ったスキレットしかない。狩りをする時のような緊張感に手は震えている。魔法を使うという選択肢は頭から抜けているようでだんだんと近づいてくる気配に体を強ばらせる。ガサガサと茂みが揺れ、姿を表したのはオオカミだった。
「オオカミ……1匹だけだけど大丈夫じゃなさそう」
生身の体にスキレット1つで獣に勝てるわけがない。今日が命日なのかもしれないと腹をくくったその時。
グルルルル
オオカミがアリフェに向かって唸りだしたと思ったらいきなり飛びかかってきた。
「うわぁ! 私なんか食べても美味しくありませんよ ……ってあれ?」
飛びかかかっていったのは身構えていたアリフェの後ろ、振り向くと大きな魔物が大きく口を開けていた。飛びかかかってきたのは魔物がいたからか。
「魔物!? こうなったら仕方ない。オオカミさん当たったらごめんなさい!」
後退りながら杖を取り出し、オオカミに当てないように水魔法を使う。魔物には魔術が効果的なのである。
水ノ力ヨ我ガ魔力ヲ代償ニ凍テツキ貫ケ|氷結ノ槍《フリージグ・ランス》
展開された魔法陣から水が溢れ出し、やがて凍てつき槍の形になった。凄まじい音を立てながら魔物に突き刺さりやがて大きな音を立てて倒れる。そのまま動かなくなった。亡骸は森の生き物たちの食料になるだろう。
「当たった……じゃなかった、オオカミ、大丈夫でしょうか」
ガサガサと物音がする。どうやら森の奥に戻っていったようだ。
「さてと」
風ノ力ヨ我ガ魔力ヲ代償二動カセ |風ノ流動《ウィング・フロワ》
動かなくなった魔物は強い風の力で浮き上がり宙に浮いている。少し遠くに移動させてゆっくりと下ろした。あいにくアリフェは眠くなったのでそのまま眠ってしまった。辺りは焚き火の音だけが響いていた。
翌朝、目が覚めると目の前に毛の塊がいた。もふもふした灰色の毛の塊。
「何だろう」
近づこうと一歩踏み出すとパキリ、木の枝を踏んでしまった。目の前の塊はピクリと動き出すと起き上がる。見覚えのある姿にアリフェは驚いた。
「昨日のオオカミさんじゃないですか。怪我はしてなさそうですね。ん?」
何故オオカミが目の前に? 疑問に思ったのを察したのかオオカミは尻尾をパタパタ振った。どうやらアリフェを食べる気はなさそうだ。
「もしかして、旅について行きたいのですか?」
その問いに答えるかのようにオオカミはバフッと鳴いた。
初めての旅の仲間がオオカミだなんてあっていいのだろうか。人間言語理解してるオオカミって存在したんだなんて。そっとアリフェは考えることを放棄した。
「それなら名前、決めないとですね。オオカミ……ウルフ……。うーん。ルーフはどうでしょう」
肯定するかのようにオオカミは再びバフッと鳴いた。
「それではルーフ、これからよろしくお願いしますね」
ルーフが旅の仲間として加わった。
魔物
魔力を持った生物の総称。なぜか破壊衝動をもっている。倒すためには魔術が効果的。
ルーフ
オオカミ
人間言語を理解するオオカミ。アリフェに出会う前に何かあったらしく毛が少し焦げている。アリフェからもらった首輪代わりの手ぬぐいがお気に入り。