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19.情勢の変化?
デカンダ王国の情勢は確実に、着実に、変わっていった。
まず。国王陛下と第一王子が殺されたので、一つ。
そして、その後の動きが一つ、あった。
「なあなあ。貴族がいない政治体制、というのがあるらしいぞ?」
「あ、私も聞いたわ! 選挙、というもので選ばれた人を国王みたいな感じにするのよね?」
「らしいな。貴族なんて身分がなくなり、俺達の声がそのまま届くかもしれないんだぜ? 楽しみだな!」
「そうね! これで重税から逃れられるかもしれないし」
「……確かにそうだな!」
と、革命を起こさせるべく、組織が噂をばらまいているのだ。
この調子じゃああと3日くらいで爆発してくれそうだ。
ちなみに、次期国王は、まだ決まっていない。
それも、革命の一手になりそうだ。
その一方で、私は着実に出立の準備を進めていた。
聖女という立場が今はもどかしい。
聖女じゃなかったらもっと早く、出立できたかもしれないのに。
私が出立する日は、4日後、となっている。
改革を見れるのはうれしい……けど、ね。
やっぱり心配事のほうが多い。
そして。3日後。
いやー、正直、昨日革命が起きてもおかしくなかった。
噂が広まりすぎてて……
夕方らへんだったからやめといてくれたのかな。
そんな自重をしてたかしてないかは関係なく……
「おらぁ!」
「じゃまあだぁ! どけえ!」
今日は多くの人が王宮に押しかけていた。
神殿と王宮は敷地が隣に続いているので、よく見える。
「王族を出せ!」
「「「「「「「「「「王族を出せ!」」」」」」」」」」
「王族を出せ!」
「「「「「「「「「「王族を出せ!」」」」」」」」」」
奇妙な光景だね……
「どうされましたか?」
そんな場面で、まるで救世主かのように登場した一人の貴婦人。
「皇后様!?」
それは、皇后様だった。
皇后様は凛とした声で言う。
「なんの騒ぎかしら? ただでさえ夫が殺され、そして我が息子も殺された。なのに犯人がわからない。そのせいで忙しいのですよ、我らは」
もったいぶっているようだが、絶対これの目的を知っているよね。
「その今がチャンスだ!」
誰かが声を上げた。
「今のは誰かしら?」
圧のこもった声。
人々は悟った。この人とは敵対しないほうがいい。
ま、例外はもちろんいる。
「俺だよ」
彼が、自分から名乗り上げた。
「王族に対する不敬、と考えてもいいかしら?」
「はっ、勝手にしろ。どうせもうじき王族はいなくなるんだ」
「どうしてそう思うのかしら? 息子は……最後の最後にマヌケなことをしましたが、他の子供はまともに育っているわ。それに、歴史も詳しくは知らない、他国との繋がりもない、行儀作法もなっていない、の3つを持つあなた達に政治ができるのかしら?
そんなことをしたら国が終わってしまうわ」
だよねー
この改革、王国の現体制に不満を抱くだけならともかく、自分たちで政治をしようとしているからね。
だから、この国はもう、どうともなれない。
「じゃあ王族がそういう仕組を作ればいいだろ!」
妥当なところか。
「民は知っているかしら? 法を作るのは王族だけではできないのよ。わたくしたちが作っても他の貴族たちが認めてくれないのですよね〜、皆様?」
横にいた重鎮と思われるような貴族は青い顔をする。
「いえ……しかし、皇后様」
「何でしょうか?」
皇后様はとびっきり(かは分からないけど)の笑顔で聞いた。
「我らにも生活というものが……いえ、何でもありません」
「そう? ま、そう言うでしょうね?」
パンパン!
「皆様、お聞きになりました? 原因はこちらの貴族にあるようですよ?」
「待ってくだされ皇后様! そんなことは言っておらんじゃろ!」
ねえ、私たちは何を見せつけられているの?
「それなら、一ヶ月以内に平民が学べる学校を作ってくださいね? もちろん、粗末なものを作ったら許しませんよ?」
「……はっ!」
「あ、そうそう。予算は脱税している人たちから今までの分、たっぷりともらってきていわよ。それを使えば十分でしょう?」
「はっ」
この皇后様、上手いなぁ。
それに都合が良すぎない?
「じゃない! そもそも、貴族が何ではこびってるんだよ!」
「貴族は、それ相応の責任を負わされていますが?」
もうそこからはただの押し問答が続いた。
彼以外にも、野次を放つものが現れた。
「皆様、そこら辺にいたしませんか? 我が夫と息子の一人がいなくなってしまったのは想定外ですが……まあユウナを除けたから許しましょう……この場をセッティングしたのはわたくしですよ?」
「「「「は?」」」」
ん?
なにか変なことが聞こえた気がするなぁ。
「事情を説明するのは面倒ですし、情報屋に頑張ってもらいましょうか」
取り敢えず、こんなふうに皆さまを煽ったのもわたくしですので。あなた達の望むものはもとから出来ないわ。ごめんなさいね。騒ぎを大きくして」
全くその通り。
面白いものが見れたからいいんだけど、この国を見捨てて損しちゃった。
あんな皇后様がいるんだからこの国は大丈夫だな。
そう安心するのだった。
翌日。
情報屋が仕事を頑張った結果。
「皇后様の真意とは!?」
「昨日、ここしばらくの、一連の出来事が皇后様発端の出来事であると発覚した。
その真意は、法の改正を貴族の反対を減らして進めるため。
そのためにかねてより皇后様は、聖女を誘拐する組織を捕まえ、脅して、今のような目的にすり替えさせたのだそう。
もともと、死人は出ない予定であったが、聖女ユウナによる行動の結果、第一王子が馬鹿に変わり、殺すことを決めたんだそう。これについて、どこの組織に頼んだかは、書かれていなかった。」
要約するとこんな感じ。
実際はもっと細かく書いてった。
そして、それを読んで、出立しようとしているのが今。
「いってらっしませ」
こんなふうに見送られるのは、もう想定内。想定内になってしまった。
そして、馬車を使うのも想定内。
そして、想定外が、一個ある。
「何故、ここにいらっしゃるのですか!?」
「あら、いいじゃない。一回お話してみたかったのよ」
目の前には……
「そんな簡単に皇后様が動いたら迷惑をかけますよ」
「大丈夫大丈夫」
「大丈夫じゃないです」
皇后様、御本人がいた。