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悪役令嬢
全校生徒から恐れられる悪役令嬢、鳳条(ほうじょう)アリア。
高飛車で傲慢、気に入らない者は容赦なく言葉のナイフで刺し穿つ。
そんな彼女が、ある日図書室で一人の男子生徒・ソラを捕まえた。
ソラが患っているのは、世界でも数例しかない奇病『宝石病』。
感情が大きく揺れ動くと、体内の成分が結晶化し、皮膚から小さく美しい「宝石」が生えてくる病気だった。
その宝石はソラ自身の「命の欠片」であり、生えすぎれば体力を削られ、やがて削り尽くされて倒れてしまう。
だからソラは、なるべく感情を殺し、目立たないように生きていた。
しかし、アリアはお構いなしにソラの胸ぐらを掴み上げた。
「ねえ、あなた。その病気、感情が高ぶると宝石が出るんでしょう? 今すぐ綺麗なエメラルドを出しなさいよ」
「……そんな無茶な。これは僕の寿命なんです」
「知るか!! 私は今、緑色の宝石がついた指輪が欲しくてたまらないの! 明日までに用意しなかったら、あなたの隠してる裏アカウントを全校生徒に撒き散らすから!」
「理不尽すぎる……っ!」
ソラは恐怖と怒りで胸を痛め、その拍子に手首から綺麗な緑色の結晶ポロリとこぼれ落ちた。
アリアはそれを奪うように拾い上げると、「ふん、まあまあね」と鼻で笑って去っていった。
それからというもの、ソラはアリアの「宝石採取ターゲット」にされてしまった。
「今日は真っ赤なルビーにしなさい! 激怒しなさい!」と理不尽に怒鳴られたり、
「次は泣きなさい! サファイアを寄越しなさい!」と激辛のカレーを食べさせられたり。
ソラは毎日、命を削られる思いでアリアのワガママに振り回された。
(もうダメだ……僕の寿命はあと数か月も持たない……)
ある日、ついにソラは学校の屋上で倒れてしまった。
視界が霞む中、バタバタと駆け寄ってくる足音が聞こえる。
現れたのは、息を切らしたアリアだった。
「ちょっと! なんで倒れてるのよ! まだ今日の宝石をもらってないんだけど!」
「……もう、無理です。……僕の命は、もうすぐ尽きます。満足ですか、神代さん……」
ソラが諦めたように目を閉じると、アリアは「はあ!?」と盛大なため息をついた。
「バカじゃないの? だからあんたは陰キャなのよ」
アリアはポケットから、ジャラジャラと重たい革袋を取り出し、ソラの胸元にぶち撒けた。
ジャラジャラジャラッ!
溢れ出たのは、これまでアリアがソラから奪い取ってきた、何百個もの色とりどりの宝石だった。
だが、それらはすべて、繊細な銀の鎖で繋がれ、一つの見たこともないほど豪華な「ドレス」のように組み上げられていた。
「これ……は……?」
「これ、宝石病の最新の治療具よ。……あなたの出す宝石はね、純度が高すぎて体内に戻せないの。だから一度外に出して、外部から『特定の波長』として体内に循環させ直す必要があったのよ」
アリアは腕を組み、ぷいっと横を向いた。
「専門医に特注で組ませるのに、どれだけ手間がかかったと思ってるの? 毎日毎日、あなたにいろんな感情を抱かせて全色の宝石を集めるの、ホント苦労したんだから!」
ソラは目を見開いた。
アリアが自分に強いた理不尽な命令や嫌がらせ。
それはすべて、ソラの命を救うために「全種類の宝石」を集めるためのものだったのだ。
「……じゃあ、僕を脅していたのは……」
「フン! 普通に『治療のために宝石をちょうだい』なんて言ったら、あんたみたいな気弱な奴は『僕のせいでごめんなさい』とか言って遠慮するに決まってるでしょ! 脅してムカつかせた方が、効率よく出せるのよ!」
相変わらずの毒舌と高飛車な態度。
けれど、ソラはその横顔に、かすかに赤くなった耳を見逃さなかった。
胸の奥が、温かい何かで満たされていく。
ポロ、とソラの頬から、見たこともない透明でキラキラと輝く結晶が落ちた。
「あ……これ、ダイヤモンド……?」
「ちょっと! また新しいの出さないでよ! ドレスの組み直しになるでしょうが!」
アリアはプンプンと怒りながらも、優しくソラの背中を支え直した。
悪役お嬢様の不器用すぎる救済に、ソラは生まれて初めて、心からの笑みをこぼしたのだった