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いや、何でもねぇよ
特務課新人の職場体験、第三話
ユイハside
職場体験二日目。
俺は昨日と同じように出社していた。
ユイハ「おはようございま━━」
そこで、思わず足を止めた。
机に乗る太宰治は、又三郎の首を絞めている。
あの、と俺は近くで作業準備を進める国木田に話しかけた。
国木田「彼奴のことなら放置でいいぞ。年に二回ほどは其処にあるキノコを食べ、あんな状態だからな」
ユイハ「……これ、毒キノコだな。死ぬんじゃなくて、頭がおかしくなる方の」
国木田「博識だな」
ユイハ「まぁ……」
島で繰り返してる中で得た知識は多い。
図書館にあった図鑑で、このキノコのことは数回見たことがある。
ユイハ「……大丈夫か、敦」
敦「ダイジョウブジャナイ」
鏡花「敦を離して」
ドスッ、と鈍い音が響き渡る。
太宰治が床に倒れ込んだ。
いや、鏡花強すぎだろ。
十四歳だよな、確か。
挨拶の日に太宰治を引き摺ってたし、最近の日本人はこうなのか?
敦「ユイハ君……おはよう……」
ユイハ「……朝から大変そうだな、敦」
あはは、と敦は笑う。
これが年に二回ほどあるとか、どうなってるんだよ。
本当に大丈夫か、探偵社。
ユイハ「昨日の続きなら一人でも出来そうだし、少し休んだ方がいいんじゃないか?」
敦「大丈夫だよ。いつもみたいに入水してる太宰さんを回収しに行くのと比べたら元気だから」
入水してる太宰治の回収ってなんだよ。
もう何度目か分からないツッコミを必死に押さえ込んで、俺は席へと座るのだった。
敦「そういえばユイハ君は事務作業だけなんですか?」
国木田「いや、簡単な依頼なら現場に向かってもらう予定だ。それこそ、密輸業者の情報集めとかな」
敦「あー……」
ユイハ「どうかしたのか?」
敦「僕が探偵社に入って最初の依頼が密輸業者関連だったんだけど、色々あってマフィアとの戦闘だったんだよね」
ユイハ「どういうこと???」
なんだかんだ、又三郎も苦労してるんだな。
その時も芥川だったらしいし、そういう運命だったりするのか?
谷崎「でも、最近平和ですよね。スタンダード島以降、大きな事件も起きませんし」
賢治「暫く海に行きたくなりませんでしたよね。今も別にいいですけど」
乱歩「ホント、太宰が僕に今回の事件の全容を送ってくれなかったら、今頃みんな海の藻屑だったよ!」
与謝野「ありがとねぇ、乱歩さん」
敦「あの時は本当に大変でしたよね」
ユイハ「……悪かったな」
鏡花「何か云った?」
ユイハ「いや、何でもねぇよ」
謝りたい。
そう思ったけど、この思いは伝えられない。
俺はガブじゃなくてユイハだ。
ガブと明かしたとして、又三郎達が許してくれるわけがない。
太宰「国木田くーん! 大変だー! 虹色のゾウリムシがー!」
国木田「貴様は少し黙れ!」
初日から思っていたけど、この会社ヤバくないか?
敦「ごめん、ユイハ君。話してたらもう始業時間だね」
ユイハ「あ、いや、大丈夫だ」
ルイスには外を見ろと云われた。
島では経験できなかった沢山のことをしている。
得ることの出来なかった本当の仲間が少し分かった気がする。
ユイハ「探偵社は見ていて面白い」
敦「自由な人が多くて大変だけどね…」
鏡花「特に国木田さん」
あー、と納得する。
初日の挨拶を入れて今日で三日目。
でも探偵社員のことは判ってきたような気がする。
一番頭おかしいのが太宰治で、その保護者が眼鏡。
又三郎とシスコンが東西のヘタレで、農民は空腹か寝てる。
女医はすぐに解体してこようとするし、和服はいつも気を張っている。
だけど、一番油断できないのは━━。
乱歩「国木田ぁ、お菓子無くなったぁ」
━━コイツ。
又三郎から色々話を聞いた感じ、此奴は異能者じゃないらしい。
しかも少ない情報で犯人を言い当てる名探偵。
俺の正体に真っ先に気づきそうなのは此奴だと思っている。
でも、何も云ってこない。
社長に聞いても、何も俺のことについては何も話していないと云う。
何考えているのか判らなくて、怖い。
ただその一言しか出てこない。
国木田「む…駄菓子の在庫がない…」
乱歩「はぁ!?」
国木田「今すぐ買ってきます━━って、俺はこれから政府関係者との会議が入っているんだった……」
乱歩「今すぐ買ってきたよ!」
国木田「しかし乱歩さん……」
怖い、とか云ってた莫迦みたいだな。
26歳児だろ、此奴。
国木田「済まない、敦。乱歩さんの駄菓子の買い出しを頼んでもいいか」
敦「判りました。あ、良かったらユイハ君も一緒にどう?」
ユイハ「……俺?」
敦「ずっと事務作業も大変でしょ。腰痛くなっちゃうよ」
ね、と又三郎は笑った。
ユイハ「……判った。俺も行く」
敦「それじゃあ行ってきます!」
その後、俺と敦はお菓子を無事に買えましたとさ。
え、そのシーンは?
作者が力尽きて書けなかった。
よし、海嘯絞めてくるわ。
キャラ崩壊してるぞ、ルイス。
あ、次回第四話はうずまきで雑談するぞ。
僕も登場するから見てね。