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赤いがおがおドラコーン
抽選の戦いの果てに、ついに手に入れた、がけもライブチケット。
何かと理由をつけて、マレウスから借りたばかりの、マレウスのがおがおドラコーン。
以前から持っていた新品の、復刻がおがおドラコーン。カラーは赤だ。
これら三点を、エースは上着のポケットにまとめて入れる。歩くとガチャガチャと音がした。機械同士──うち一つは借り物だ──をぶつけるのはよくないと思い、借り物のほうを別のポケットに入れ直した。
目指すはイグニハイド寮。
「お願いしますイデア先輩! このチケットをあげますので、このがおがおドラコーンたちにチャット機能を付けてください!」
まずイデアはチケットを確認した。
本物だが、席の位置が最悪だった。三百六十度の観客席の中には、とうぜんアイドルたちがまったく見えない位置がある。しかもメインステージが柱で完全に隠れてしまう位置。一番安い席に応募したのは確実だ。
なじろうとしたが、やめた。二つのオモチャにチャット機能を付けるなど簡単すぎる。チケットの値段的に、報酬に見合う依頼と言えた。
イデアはエースに質問する。
「チャットってことは、ネットでつながりたいの?」
「はい。いつでもメッセージが送れるように」
「この二つのオモチャ限定?」
「その二つの間だけでお願いします。トランシーバーみたいな? あ、あと操作は複雑にならないように」
「そうなると、あまり文字数が送れないよ。ボタンもたった四つしかないし。この画面だと、せいぜい八文字がいいとこ」
「それでいいです。おはよう、とか、こんにちは、とか、そのくらいの文字が打てるだけでいいんで」
「へえ……」
いじらしい。
いくら一番安い席とはいえ、競争率の高いチケットだ。それを苦労して手に入れてまで、やってほしい依頼内容は、とてもいじらしいものだった。
リア充は嫌いだが、親しい者には当てはまらない。
「いいよ。すぐにできる。明日、オルトに届けるようにお願いしとく」
「よっしゃあ! お願いします!」
「スマホも使えない恋人を持つと苦労しますなあ」
「そ! そんなんじゃないですって! すぐに連絡が取れないのって不便なんですよ!」
捨てゼリフを吐いて、エースはイデアの部屋から出ていった。
残されたイデアはつぶやく。
「連絡、ねえ」
一言程度のあいさつだけで済まされる連絡など、あるわけがないのに。