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幸せな大晦日の夜
「マッチ、マッチはいりませんか?」
ある一人の少女が懸命にそう叫んでいる。
周りの人々はその少女を見ることもなく通り過ぎていく。
仕方がない。いつもこうだ。少女は半ば諦めながらも懸命に叫ぶ。
「マッチ!マッチはいりませんか!」
寒さで震える口を誤魔化すように声を上げる。
今日は大晦日。街の人たちは少女のことなど気にもとめず、家でのんびりするのだろう。
それでも少女は家で待っている父親のためにマッチを売らなければならないのだ。
⋯本当に父親のためなのだろうか。
本当は、この生活がこれ以上悪化するのが怖いだけなのではないのか。
ふと少女にそんな考えがよぎる。
良くない考えだ。少女は頭を振ってその考えを打ち払う。
「売ってくれないかしら?」
「え?」
ふと頭の上から声が聞こえた。
慌てて少女が顔を上げると、そこには身なりのいい女性が立っていた。
女性はニコリと微笑みかけてくる。
「あ、ありがとうございます。えっと、マッチ何個いりますか?」
「いいえ、売ってほしいのはマッチじゃないわ。」
女性は少女を指さした。少女は首をかしげる。
自分の服を売れということだろうか?
でもお世辞にも綺麗とはいえない服をこの女性が買うとは思えない。
「あなたを。売ってくださる?」
「え?」
少女が困惑しているうちに女性は少女の手を引く。
そして少女が止める暇もなく、女性は少女の家へ向かった。
「ごめんくださる?」
「あぁ?誰だお前。おい!マッチは売れたのか?」
父親の怒鳴り声に少女は肩を竦める。
そんな少女を守るように女性が少女の頭の上に手を置く。
「この子。売ってくださらない?」
「あぁ?」
「これだけあれば足りるかしら?」
目が眩むほどの大量の金貨に父親の目が変わる。
父親はたくさんの金貨の数を数えると、女性を見た。
ニヤニヤと笑う父親の目にもう少女は映っていない。
「いいぜ。売ってやる。」
「ありがとう」
女性はそっけなくそう言い、少女の手を引く。
最後、往生際悪く父親の方を見た少女の目には金に目が眩む悪魔が映っていた。
少女は全てを諦め、女性の方を見る。
「今日は冷えるわね。|私《わたくし》の上着を使って」
「あ、ありがとうございます」
その日。
少女は女性の家で温かいごちそうを食べ、清潔な服を着せてもらい、客室に通してもらった。
外ではしんしんと雪が積もっている。
もしあのままマッチを売り続けていたら。
もしかしたら寒さに耐えられなかったかもしれない。
そんな恐ろしいことを考えつつ、少女は窓の外を見る。
温かい、ストーブのある部屋。
少女は温かさに包まれながら眠りについた。
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少女は女性の養子となった。
女性は身分のいい人だった。
もう街で少女を見て見ぬふりをして通り過ぎる人はいない。
しばらくし、また冬が来た。
少女と女性は今、一緒にクリスマスツリーを飾っている。
二人はとても幸せに暮らしている。
今も、これからも。
題名:幸せな大晦日の夜
元ネタ題名:マッチ売りの少女
元ネタ作者:アンデルセン
自分の作品の解説:元ネタでは幻覚だった部分を本当に体験してほしくて書きました。
少女を見て見ぬふりした大人たちが許せなくて、無視できない存在
にしてしまおうと思い下剋上?とは少し違いますがそんな気持ちで
書きました。
元ネタ作品を選んだ理由:恵まれない子が恵まれてほしいという思いから。
眠り姫へ一言:はじめまして。面白そうな企画だと思い参加させていただきました。