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時間です、お嬢様
夕寝灯
君は死を恐れたらしい。
時間です、お嬢様
「…。」
黒髪の男が病室のベットでよくわからない哲学的な本を読んでいた。
「おはよう。今日はあいにくの雨だけどアンタが本を読むのは変わらないのね。」
ガーベラの花束を持ってきたワンピースの少女は強気にそう言った。
「お嬢様。また来てくださったのですね。嬉しい限りです。本はいつ読んでも面白いのですよ。
これを機に、お嬢様も読んでみてはいかがです?」
ふふふ、と微笑む男は心から笑えているようだった。
「そうね。アンタが読んでるのをまず読みましょう。何を読んでるの。」
「『人はなぜ時間が流れるにつれて死を望む者や死を恐れるものが出てくるのか』です。
私は、どちらでもありませんが、死ぬ前に人間をよく知っておきたくて。
お嬢様はどうですか?」
どちらでもない、それはどういう意味なのか推測でしか、結論を出せない。
彼が望まないから。
「どちらかといえば恐れているかもね。
最近悲惨なニュースを聞くととっても胸が痛くなるの。」
胸に手を当てて俯き、目を瞑る少女は心の目とはよく言ったもので、男を見ているように見える。
「私もよく見ます…ゲホッ、ガハッ」
風邪を引いたあの時みたいなしゃがれた咳をした男に少女は駆け寄った。
「無理しなくていいのよ…?」
「いえ、ゲホッ…時間です、お嬢様。」
面会時間は終わり。楽しいと感じた時間はあっという間なのだ。
男は「どうにか、出ていってくれ。」と言わんばかりに無理やり少女を追い出すように男は手を置いた。
「わかった…。」
バタンと病室を出て、ボディーガードに少女は言った。
「『人はなぜ時間が流れるにつれて死を望む者や死を恐れるものが出てくるのか』を買っておいてちょうだい。」
「承知いたしました。」
『次は何を持っていこうか。フルーツもいいな。彼は確か林檎が大好きだったんだ。
花だって取り替えてあげよう。私だってやる時はやるんだ。』
そんなことを能天気に考える。病室からのピーという音と同時に。
彼女は目を見開き大粒の涙を流し、後悔した。
あの時引き下がらなければ、彼の最後を笑って見届けられたのに。ーend
読んでくださりありがとうございます。
読んでくださった方全員大好きです。
初めての小説で緊張しております。
そして下手です。あはは…。