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第伍話【対】
天井から足音が聞こえる。私はゆっくりと目を開け、起き上がった。手首の方からジャラリと音がした。ああ、そうだった。今日の昼、彼が来て、私に手に鎖をかけたんだった。地味に重い金属製の鎖を地面に打ち付けたり、鎖同士で打ち付けたりしたが、外れはしなかった。諦めの溜め息をつく。その時、ガコンと音がして、梯子から誰かが降りてきた。私は身構える。降りてきたのはシラハだった。
「ユヲネ、来ました。」
シラハの柔らかく不思議な声を聞いて、私は安堵の息を洩らす。昨日初めて会った相手にここまで気を許している自分にびっくりした。
「昨日はゆっくり話せなかったので。教えてくれませんか?貴方がここにいる理由。成功例ってどういう意味なのか?」
シラハの真っ直ぐな質問に私は少し戸惑った。自分の言葉であの事を話したくない。そして、単純に記憶がないからだ。人間は恐怖に陥ったとき、自分を守るために、無意識のうちに記憶が消える、らしい。
「分からない。覚えてない。」
「じゃあ、なんか覚えている言葉とかは?」
「………魔。」
自然と喉の奥から声が出てきた。その言葉を口にするとき、酷く頭痛がして、脳内に何かが浮かび上がった。必死にそれを思い出す。浮かび上がってきたものを見て、私は思わず呟いた。
「なに、これ………。」
浮かび上がってきたものは花だった。赤色の鮮やかな花。
「どうしたの?」
「赤色の花………。その花の香りを吸わされて………。それで………。」
どんどん酷くなる頭痛と戦いながら必死に言葉を紡ぐ。しかし、そこまでで、視界が真っ暗になった。そして、真っ赤へと変わった。
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「ユヲネ?」
名前を呼ばれて、私は目を覚ます。体を起こすと心配そうにこちらを見ているシラハと目があった。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、うん。」
曖昧な返事をする。
「じゃあ、まとめると、ここでは人体実験が行われていた、と。」
「ここじゃないけどね。」
私は付け足す。そう、ここでは行われていない。行われたのは、別の地下施設だ。
「たぶん、ここから近いと思うけど………。」
私は移動した時間を指折りで数えてみる。五分程度で、そう遠くないはずだ。
「ここから五分くらい………。」
シラハは何かを思いついたように、ハッとした表情で呟いた。
「お祈りの場……………。」
震える声で呻くように言った。
「明日、行ってみる。」
シラハは上の空の様子でそう言うと、梯子を登り始めた。私はその姿を見送り、壁に背を預けた。
あとがき
ここまで読んでくれてありがとうございます!
あ、あとがき付け足したのバレました?
時間ないので、次回も読んでくれると嬉しいです!