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ep.2 月灯かりと皇子の本音
「綺麗な音色ですね。」
リアムがそう声をかけると、少年はこちらを驚きの目で見る。
「リアム第一皇子殿下...」
リアムは輝くほどに淡い金髪、菫色の紫の瞳だ。端から見れば、第一皇子と見た目と背格好が一緒なのだから。
「そうですよ。驚かせてしまいごめんなさい。あまりにも君の奏でる音色が綺麗で来ちゃいました。君の名前は何て言うんですか?」
少年は涙を拭い、目を見開き驚く。そりゃそうだ。一国の皇子に声をかけられれば誰だって驚く。
「ノア•アーベントと申します。殿下。」
ノアはそう深々とお辞儀をした。リアムは貼り付けた笑みを浮かべた。正直、音色には惹かれたが、どんな心の持ち主かはわからない。もしかしたら、ノアにはものすごい下心があるかもしれない。
「殿下はいつもそんな感じなんですね。生きてて楽しいですか?」
生きてて楽しい...その言葉がグサリとリアムの深いところに突き刺さる。何がこいつにわかるのだろう。皇子としての役目をリアムは全うしてきたつもりだ。リアムの貼り付けた笑みでもみんな喜んでくれた。でも、どうしてノアはそんなことを言ってくるのだろう。
「どうして、そんなこと言ってくるの...僕は今まで頑張ってきたのにっ。僕の辛さを全く知らないくせに...」
リアムはノアに八つ当たりをする。そうすればするほど、涙がぼろぼろと溢れ出してくる。今までこんな情けない姿、誰にも見せたことはなかった。誰にも見られたくなかった。
「殿下の苦しみを私がわかることはありません。ですが、今まで辛かったですよね。苦しかったですね。頑張りましたね。私の前では泣いてもいいんですよ。」
そう、子供を諭すようにゆっくりとした優しい口調で言った。リアムは初めて下心のない優しさをもらった。嬉しかった。ただこの時だけは報われた気がした。リアムはノアの胸の中で思い切り号泣した。
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「少しはおさまりましたか?殿下。」
ノアはぽんぽんとリアムの背中を叩く。今まで耐えていた分の涙を全て流したのか、すっきりしていた。
「ごめんなさい。情けない姿をお見せしてしまい。もしよろしければ何がお礼をしたいです。」
リアムがそう言うと、ノアは熟考のすえ、一つの答えを導き出した。
「殿下。もしよろしければ、俺と今、一緒にいてくださいませんか?敬語もなくて大丈夫です。俺も外しますし。」
側近にしてほしいという邪心に塗れたものではなかったことにリアムは驚く。
「うん。わかった。君は綺麗なんだね。欲に塗れた貴族たちと違って。こんな人初めてだ。」
リアムはそう言い、真っ直ぐに優しい目でノアを見つめる。その凛々しい姿にノアは少しドキッとする。リアムの姿は月灯かりに淡く照らされ、一つに結えている綺麗な長い金髪がこれ以上にないくらい映えている。そんなリアムにノアは苦悩を覚えた。
「俺はそんな立派な人間様じゃない。辛い過去があるんだ。そのせいでたくさんの人を傷つけた。話していいか?」
そう深刻そうな様子でノアは切り出した。