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ダメだから昨夜、お前を襲ったじゃん
ゲームリリース前に書いたものです。
「ノア……もうラフタを責めないであげて……」
「シュウ」
ノアはシュウに駆け寄った。
頭から布団をかぶりながら、けんめいに廊下を歩いてきたのだろう。太ももまで姿を隠していても、きたえられた足は剥き出しのままだった。
加害者をかばうシュウの姿が痛々しい。ノアはなるべく優しい声を出す。
「体は痛むか」
「ぜんぜん痛くないよ」
布団越しの声はくぐもっていた。
「腹はすいてないか」
「ちょっとすいてるけど、まだ食べなくてもいいかな……」
「食べろ。お前はあのケダモノに好き放題されたんだぞ。身も心も回復すべきだ」
「なあ! ケダモノは言い過ぎじゃないか!?」
遠くから聞こえてきた抗議の声に向かって、ノアは冷たい目をおくる。
「言い過ぎではない。シュウの優しさにかまけて、調子にのったサルめ」
「サル!? ケダモノって言われるより、なんか嫌だ!!」
呼ばれ方にケチをつけるラフタはまだ反省していないようだ。ノアはこれみよがしにため息をついた。
共用リビングに残されたラフタはまだ抗議を続ける。
「だいたいシュウが僕のお誘いに乗らないのが悪いんだよ。ノアのお誘いには乗るくせに、不公平だ!」
「ううう……」
みのむしと化しているシュウを背中にかばいながら、ノアは答える。
「俺とシュウはもうすでに籍入れを済ませているからな。だがお前、俺とは済ませても、シュウとはまだだろう」
ファミリーネームは変えなかったが、ノアとラフタはすでに籍を入れてある。とはいえ、その前から二人はむつみ合っていた。
だがシュウは違う。シュウの実家は太い。たとえ将来を誓いあった者が相手とはいえ、婚姻という契約もなしに、体の関係を持ってはいけないのだ。これがすでにシュウと籍を入れたノアと、まだ入れていないラフタの差だ。
ちなみに配偶者が二人もいていいのか、という問題は、愛によって解決済みである。愛に不可能などない。あえて不可能をあげるとすれば、配偶者の一人であるラフタの不得意分野の克服である。
書類作成が苦手なラフタはまだシュウとの婚姻届を用意できていない。
「パパとママの説得は済ませてるから、あとは書類さえあればイケるんだって!」
「知ってる。それを書いて、役所に届けろと言ってる」
「パパとママの署名がまだでえ……」
「……署名は誰でもできるはずだが?」
「せっかくならパパとママのほうがよくってえ……」
「ああ……」
ノアとの時もやけにこだわっていたことを、ノアは思い出した。
「今日は休みだ。今のうちにご両親のもとへ行ってこい」
「二人とも朝から用事があるみたいでえ……」
「じゃあ休みが合ってるときに行け」
「何週間先だと思ってるんだよ! それまでガマンしろって!? 僕だってシュウといちゃいちゃしたいのに!!」
無益な攻防戦のさなか、シュウがもぞもぞと布団から顔を出して「ラフタ……」と声をかけた。
ラフタもノアの肩越しにシュウを見て、声をかける。
「シュウ! シュウは嫌だったのか? そんなに僕とあんなことやこんなことをしたくなかった?」
シュウは涙の跡が残っている顔のまま答える。
「ううん。俺だってノアといっしょに、ラフタときゅんきゅんなことがしたいよ」
――きゅんきゅんとは何だ。いちゃいちゃとどう変わらないんだ。もし変わらないのなら、じゃあ今ナチュラルに、俺もラフタといちゃつきたいと代弁されたな。
ノアはそう思ったが、そのとおりだったので、口ははさまないでおいた。
申し訳なさそうなシュウの言葉は続く。
「でも、ごめんね。まだ籍を入れてないラフタに手なんて出せないよ。だから今はハグだけで許してほしいんだ。……ダメかな?」
「ダメだから昨夜、お前を襲ったじゃん」
「しばき倒すぞ」
さすがにこれには口をはさんだ。
ラフタはぴゃっと肩をすくめて「もうしばかれたよ!!」と頭を押さえながら叫んだ。患部を押さえるだけの余力があるのなら、あとでもうひとつたんこぶを作ってもいいだろう、とノアは考えた。
シュウは不穏な空気を察知したのか、ノアに願う。
「ノア。もうラフタを怒らないであげて。もとはといえば俺のわがままのせいなんだから」
「お前のそれはわがままじゃなくて、家の都合上、しかたのないことだろう」
「でも拒みきれなかった俺にも非はあるよ」
「……」
考えてみれば、シュウの力なら、ラフタを跳ね除けられたはずだ。
そうしなかったということは、シュウもラフタを受け入れたということ。だから同罪なのだと、シュウは言いたいようだ。
「お前は優しすぎる」
ノアの言葉を受けとめたシュウは困ったように笑った。
遠くから様子を見ていたラフタは声をはずませる。
「そうそう! シュウも僕を受け入れてくれたんだから、これで僕とシュウも正式なパートナーになったってこと! これからは堂々といちゃいちゃしていいよね?」
「それはちょっと……やめようか」
シュウは自身のくちびるに人差し指を当てる。
「昨夜のことはアヤカシ家にはないしょにしておくから、籍を入れるまで、おとなしくしててね?」
名家の一人息子からの圧を感じたラフタは「はい。もう襲いません」と誓った。
とりあえず昨夜の事件は解決したと思っていいだろう。
ノアはシュウの真横に移動して、腰をゆっくりと抱く。シュウの顔の横にまとわりついている布団をつまむ。
「この下は裸だろう。朝食の前に服を着ろ。部屋まで介助してやる」
「ありがとう。でも一人で歩けるよ」
「だがラフタのあの様子……かなりひどいことをされたんじゃないのか?」
許されたラフタはノアにしかられたりシュウに釘をさされたりしたことを忘れたように、中断していた朝食づくりをいそいそと再開させている。加害者が元気であれば、被害者は推して知るべし。
そんなノアの予想ははずれていた。
「本当に平気なんだ。むしろシャッキリしてる」
「……すがすがしい、ということか?」
「うん。だって――」
シュウは照れくさそうにほおを赤らめながら、続きを明かす。
「俺がラフタを抱いたから」
「……」
「……びっくりさせちゃった? でもずっと上に乗っかられて、泣いちゃうほど恥ずかしいことをされたのは本当だよ」
「…………そうか」
ノアはつい想像してしまった。
精神的に優位なのはラフタなのに、肉体的に優位なのはシュウという、ちぐはぐでいやらしい二人の性行為を。
昨夜の二人の痴態を見られなかったことに悔しさを感じてしまう。
「だからお前も同罪だったということか」
「混ぜてあげられなくてゴメンよ。俺もしかるかい?」
「襲われたのは本当だろう。だからしからない。むしろ――」
ノアはシュウの腰をえんりょなくグッと引き寄せる。二人の顔も自然と近づいた。
ななめ上下でぶつかる視線の中で、ノアは提案する。
「お前とラフタの籍入れを今日中に済ませられるように、俺も手伝ってやろう」
シュウはパチクリとまばたきをする。
「ラフタを成長させるために、ラフタと俺のは、あえて手をかさないんじゃなかったかな」
「そのつもりだったが、気が変わった。このままでは数週間どころか、数カ月はかかりそうだ」
「あはは……まあ誰にでも得手不得手はあるからね」
「そのあいだ、お預けを食らうなんぞ、俺も嫌だ」
シュウはハッと息をのんだ。
「お前に抱かれているラフタを想像してみたら、俺もそんなラフタを抱きたくなったし、ラフタを抱いているお前にも抱かれたくなった」
恥ずかしがらずに白状したノアの姿を見たシュウの目がかがやく。
「わあ。うれしいな。俺も早く二人といっしょにしたかったんだ。ほら、ラフタはきゅるるんって感じだけど、ノアはシャラランって感じだから」
ラフタはキュート系で、ノアはセクシー系と言いたいのだろうが、何が、ほら、だ。何をうながして、同意を求めているのか。ノアはそう突っこみたかったが、相手はシュウだ。何をたずねても、どうせ言語化できない返答のみなのは目に見えている。追求はしないでおいた。
ノアはシュウから離れる。
「俺は婚姻届の進捗状況をラフタに聞いてくる。シュウはとにかく服を着てこい」
「はーい」
クスクスと笑いながら、シュウは肩に布団をかけたまま部屋にもどっていった。
ノアはキッチンで働いているラフタに近づき、背後から声をかける。
「ラフタ」
ラフタは振り返らないまま「なにー?」と返事をした。
「お前とシュウの婚姻届はどこまで書いてあるんだ? あとはご両親の署名だけか?」
それならうまく時間が合えば、午前中には済ませられるかもしれない。そう期待していたのだが。
「署名してもらってから書くつもりだから、まだ何も書いてないよ」
「……何も?」
「うん」
「一文字もか?」
「うん。おっ! 見ろよノア! ふたごだ!」
ひとつの卵から黄身がふたつ出てきたらしいが、ノアはそれを見る気はなかった。
「今日はいいことありそうだなー」とのんきに言っているラフタのたんこぶ頭めがけて、ノアは二度目のげんこつを落とした。