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斑模様
艶のある、長くて黒い髪が好きだ。
理由は知らない。考えようとしたこともない。気づけば指先がそれを探し、視線が吸い寄せられ、胸の奥がひりつくように熱を帯びる。ただ、それだけのことだ。
月明かりに照らされた黒髪は、夜そのものだと思う。闇を梳かし、闇を束ねたような、静かで、柔らかく、それでいて抗いがたい深さを持っている。風に揺れるたび、喉の奥がきゅ、と締めつけられる。息を吸うことすら忘れてしまうほどに、愛おしい。なぜだろうか。「欲しい」と思った瞬間には、もう手の中に集めている。
私は、足元に広がる光景へと視線を落とした。枯れた死体の山。数えることもやめてしまったそれらは、互いに折り重なり、まるで収穫を終えた後の藁束のように無言で横たわっている。その大半が、私の好きな黒髪の少女たちだった。
肉体に含まれていたはずの水分は、すべて弾け飛んでいる。皮膚は縮み、骨の輪郭を露わにし、眼窩の奥には影だけが残っている。木乃伊のように、かぴかぴに乾ききった身体。けれど、髪だけは違った。
艶やかで、しなやかで、生きていた頃と何ひとつ変わらないまま、彼女たちの頭部に縫い止められている。
それを、そっと撫でる。
指先に伝わる感触に、胸が満たされる。安心する。
「ああ、やはり美しい。」
周囲は私のことを〝あやかし〟と呼ぶ。人ならざるもの、理から外れた存在。そう囁き、恐れ、距離を置く。石を投げる者もいれば、祈りの言葉を投げつける者もいる。
けれど、私は至って普通の人間だ。人間にも、好きなものがあるだろう。花が好きな者、宝石が好きな者、甘い香りや、柔らかな肌触りを好む者。それと同じだ。私の場合、それが「髪」の毛だっただけ。
黒く、長く、艶やかな髪。
それを集め、眺め、触れていたい。ただ、それだけのささやかな欲望だ。
命を奪ったことが問題だと言うのなら、それは理解できる。だが、彼女たちはもう、何も感じない。苦しみも、恐怖も、悲しみも、すべて乾ききっている。残ったのは、美しさだけだ。
何が、可怪しいのだろう。
私には、どうしても理解できない。
私は再び、黒髪の束を胸に抱き寄せる。夜は静かで、風は優しい。今日もまた、世界は私を化け物と呼ぶ。それでも、この美しさだけは、決して間違っていないと、私は知っている。