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一生君を愛していく自信があるよ
愛しているからこそ、苦しいものなんだ。
カタカタとブーツの音が響き渡る。
この業界では有名な、彼女だ。
「今日は、どんなご用で。」
止まったと思えば腰に手を当てて面倒くさそうに話しかけた。
話しかけた相手は椅子に座り、彼のリストを見ながら彼女に話しかける黒ずくめの男。
「あぁ、この男に接近して、殺せ。」
「殺せばいいのです。」
「いーや?この男は我々の計画には欠かせない情報を握っている。仲を深め、引き出せ。
そうしたらすぐに殺すのだ。」
黒ずくめの男がニヤリと笑うと、女は心底面倒臭いと言わんばかりに渡されたリストを確認した。
身長体重顔写真趣味嗜好住所実家、ありとあらゆる情報が載っているこのリストを見れば、なにを引き出せばいいのかわからないほど。
「具体的にはどんな情報を。」
「コイツの実家でやってる商業についてだ。
どんな情報でも良い、どんどん聞き出せ。いずれ分かる。」
「なるほど。じゃ、また。」
「あぁ。」
各自設備されている個室に入るとベットに倒れ込み、リストを再確認した。
「身長、体重…それには興味ないのよね。
好きな女性のタイプ…使えそう。なりきりか。」
『可愛らしく気品がある女性。
自分の立場を分かった上で関わる女性。』
「うげぇ、私と反対じゃん。」
女性らしくなく下品。
自分の立場を変わっていない下賤。
「ぁぁぁぁぁぁあ…もうどうだっていい。この男に接近するのだ。」
「あら、そこの人!これ、落としましたよ?」
「あえっ?ありがとうございます。」
この女、変装の達人である。
ストレートのはずの髪は可愛らしい巻き髪に。
いつもスパッツ的なものなのに花柄のワンピースを着ている。
the・女といった格好をしている。
性格も分析し、絶対に役になりきる、それが彼女だ。
「少し、お茶しません?」
「え?」
「どこかで会ったことあるような気がして!気のせいですかね。」
男性が助けたくなる仕草、表情、顔の良さ、スタイル、服装を理解している。
この手口を使うのは初めてではないのだろう。
「いっ、いえ!僕もそう思ってました!あそこ、入りましょう。」
案の定、彼はカフェへと誘導した。
カフェに入る直前、彼女の性格には合わないような不敵な笑いをしたのは、誰も、見ていない…はず。
「あっ!テレビに映っていたから知っていたのですね!
なるほどぉ、テレビに出るってとっても凄いです!」
「いえ、僕は親の七光りですから。」
来た、ふふっと笑うと…
「何をおっしゃる!もしご自身で起業していないからといって親の七光りとは言い切れませんよ!」
「…え?」
「貴方が頑張らないと、きっとこの未来もないですもん。」
3・2・1そのリズムで、彼は彼女に堕とされた。
彼女にはわかりきっていた。
彼女は…美しすぎる。策士であり、もちろん容姿も良い。
いわゆる恵まれた人間である。
「あ、私は西宮日奈子と言います!」
しっかりと偽名を刷り込ませて。
数ヶ月。彼女は彼にアプローチという名の情報収集を続けた。
そして、時は来た。
「もう、この男を殺して良い。」
「……はい。やり遂げて見せます。」
「ヘマはしないでくれよ。」
「もちろん。」
少し苦しそうに唇を噛んだ彼女は眉間に皺が寄っており、彼女の心の中なんて誰にもわからなかったが、こんなにもわかりやすくなった。これも、彼のお陰か。
「今日、私のお家来ませんか?」
「良いんですか?!」
男とは単純で、好きな女の家に行けることを最高の思い出とする。
そんな思い出も数時間。
「あの、日奈子さん。何をしてるんです?」
「私は西宮日奈子ではありません。
貴方を殺す。殺し屋、です。」
「…」
「自分が好きになった女が自分を殺しにかかる殺し屋だなんて!
最期に見るのが好きな人の顔で、貴方は、貴方は幸せ者ですね!」
「違う、違うんだ。僕は君の本心が知りたい!
最期なんだ、教えてくれないか、君が思っていること、
本当に君は誰に対しても何の情をも持っていなかったのか?!
笑いかけてくれた君は、違う誰かなのか?」
「冥土の土産に教えてあげます。
私は、私は一生君を愛していく自信がある。」
ザシュッと気持ちの悪い音が響く。
あぁ、やっぱり不快だよ。好きな人の手が冷たくなるのは。
皆さんは好きな人はいますか?私はいません。好きな人がいるなら、一つ言わせてください。
本当に貴方の好きな人は貴方に似合う方でしょうか?
読んでくださった方ありがとうございます!
全員大好きです!!