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夏
地元の畑の直ぐ側に在る。
『生けるトンネル』
それは、近くに信号機がある。
しかし、昔の台風でちょっと斜めを向いている。
まるで、そのトンネルから目を背けているかの様に。
かつての事件を知っているかの様に。
あの日、確かにトンネルは人を消した。
光が消え、また見えた時、其処には誰も居なかった。
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あの日、冷たい夏の夜、友人達と行くことになった。
止めても聞かず、信号機の周りに皆集まっていた。
蛍が辺りを舞っていた。
対称に、トンネルの中は暗い。
端には知らない花が萌えている。
その花の視線が痛い。
僅かな月明かりが其処に在るものを意識させる。
看板を見つける。
先頭の子が、スマホの光で読み上げる。
「`我々は誤った。此処は神の地、人が立ち入ることは許されない。入った者は…`」
光が消えた。
スマホが地に落ち、壊れた。
先頭の子が、消えた。
私達は、怖かった。
だから、走った。
段々と足音が減っていく。
永遠の闇が意識を奪う。
気づけば、私は信号機の足元で倒れていた。
目の前には死んだ蛍が居た。
振り返ると、トンネルの中には月明かりが差し込んでいた。
そして、見えた。
誰も居なかった。