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6.自分のノート
授業中、罪木蜜柑はいつも真面目にノートを取っていた。
教師の言葉、黒板の文字、問題文…必死にペンを走らせる。
そんな仮面の下には、誰にも見せない世界が広がっていた。
時折、先生の話が一段落したり、問題を解き終えた時の僅かな隙間。
そんな時間を利用して、ノートの下に隠したノートに、ペンを走らせる。
そのノートには、生み出したオリジナルペルソナが描かれていた。
「ひ、ヒュポクリシア…!私の、ペルソナ…!」
そのペルソナは、ヒュポクリシアという名前だった。
ギリシャ語で「偽善」を意味するその名前は、罪木自身が抱える、
他人の顔色を窺う自分、そして本当の自分を隠すという二面性を象徴していた。
ボロボロの包帯を全身に巻きつけ、顔もほとんど見えない。
右腕には、禍々しいほど大きな注射器を携えていた。
「いつか…この子と一緒に、シャドウと戦って…!」
使えるであろうスキル名や、その特性などもびっしりと書き込まれている。
回復スキルはもちろんのこと、相手を状態異常にするスキルも持っていた。
こっそり描く時間は、現実の自分から解放される、瞬間だった。
勉強のノートを熱心に取っているかのように見える彼女の内側では、
自分だけの特別な『ペルソナ』が、静かに覚醒しようとしていた。