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第六話
3人は、とある高層マンションの前に立っていた。
残り3人のうちの一人…小野昴は、このマンションに住んでいる。
如月「宮ちゃんを疑うつもりは無いんだけどさぁ…ほんとにここが一番狙われにくいの?こーいう…成金?みたいな奴って一番に狙われそうなんだけど」
三鷹「あたしとしては、アンタが真面目に仕事やってる方が疑問なんだよね。改心したの?」
如月「面倒なことはササっと終わらせて遊びたいじゃん」
三鷹「…意外と計画性あるタイプだったんだ。…で、クロミヤちゃん、ここが最後だっていう理由は?」
黒宮「小野昴はIT会社の経営をしていて、ほとんどこのマンションから出ない。交通事故死偽装専門の水母にとって一番やりづらい相手のはずだ」
三鷹「殺せないってこと?確かに、外にはあんまり出て無さそうだけど」
黒宮「最後に殺すつもり、というだけで、結局は小野も殺すだろう。…水母は、効率的で疑われ難い殺し方を選ぶが、本来は殺戮を好むタイプだ。小野は、彼の住む部屋で嬲り殺すつもりなんじゃないかと思っている」
三鷹「さすが探偵。…水母って割と凶暴なんだ…。なんか、大人しそうなイメージがあったけど。名前からしても、ふわふわしてて可愛いじゃん」
黒宮「…クラゲって毒があるんだが」
三鷹「蝶のように舞い、蜂のように刺す…って感じか」
如月「実際、水母はこの業界でもベテランの部類に入るよね。気をつけた方がいい…かな?うん、たぶん」
三鷹「珍しい慎重論。アンタ、頭でも打った?」
如月「打ってないって笑」
三鷹「ふーん…。まあどうでもいいけど。アンタが情報流してるわけじゃ無いよね?」
如月「そんなことしないよ〜。『貿易社』に情報流したって良いことないじゃん」
黒宮「現状は、な。情報を流したことが露見すれば無事ではいられない。けれど、野田は政界にも顔が効くし、そろそろ『会社』も危うい」
三鷹「裏切るなら今のうち。疑心暗鬼になってもどうしようもないけどさ、もしアンタが裏切ってるなら…あたしは、アンタを殺さなきゃいけない」
如月「二人して俺のこと疑わないでよ〜。そんなに怪しく見える?」
黒宮「女に誑かされてやりそう」
三鷹「正直、結構怪しいわよ」
如月「酷くない!?」
黒宮「怪しさで言ったら御魂さんも私も同じだけれど、普段の行動を見ていれば裏切っていてもおかしくないのは如月さんかな、と」
如月「うわー、もしかして俺、峰山にも怪しまれてる?監視とかされてたらどうしよ…」
三鷹「本当に裏切ってなければ気にしなければいいでしょ」
黒宮「裏切っているとなれば、すぐに野田のところに駆け込むか海外逃亡をお勧めする」
如月「ねえ!?なんで二人とも俺ばっかり疑うの!?湖畔ちゃんも怪しいよね!?」
三鷹「湖畔?なんで?」
如月「昨日、資料室で一緒に探し物してた時に…」
小野がマンションから出てきた。
硯に頼んで、偽の依頼メールを送ったのだ。うまく引っ掛かってくれたのか、はたまた『貿易社』の人間に呼び出されたのかわからないが、早急に連行する必要がある。
三鷹「アンタ、小野昴?」
小野「そうだけど、なんかあんの?」
警戒することなく、無防備に立っている。
如月「ちょっと来てくれる?話聞きたいんだけどさ〜」
小野「はあ?」
如月「7年前、紫村圭司って人殺したの、覚えてるよね。その人について聞きたいんだけどな〜」
小野「なんでそれを…!」
慌てる小野を路地裏に引き摺り込む。
拳銃をチラつかせれば、聞いてもいないのにいろいろと話し始めた。
小野「あ、あの時は、金が欲しくて…。SNSでバイト募集してて…。人を殺す仕事だってことは知らなかったんです!紫村って人の家に強盗に入って、男を連れされって内容で…」
如月「バイトを募集してた人と会った?」
小野「は、はい!…なんかヤクザみたいな人と、子供…もいて」
如月「その家に?」
小野「や、打ち合わせで、なんか古いビルに行った時に…」
三鷹「ちなみに、その募集してた人ってこの中にいる?」
適当にピックアップした数枚の写真と、掛川の写真を見せる。
小野「この人です…」
指差したのは、掛川の写真。
如月「ちなみに、そこにいた子供って何歳くらいだった?」
小野「中学生…くらいだったと思います。暗かったので、よく覚えてないんですけど」
三鷹「やっぱ水母も関わってたっぽいね…」
如月「あっち側確定か〜」
黒宮「…お前は、『貿易社』を知っているか?」
小野「ぼ、貿易社…?」
三鷹「知らないよね…」
小野「…『貿易社』について知っていることを話したら、殺さないでくれますか?」
如月「三鷹ちゃん決めて〜」
三鷹「優柔不断め…。…そうね。殺さないかもしれないわ」
小野「俺たちを雇った、掛川って男は、『貿易社』の結構上の方らしいです。社長って人の命令で、紫村を殺さなきゃいけないとかで…」
三鷹「野田の方が紫村圭司を始末したかったってこと?」
黒宮「会社の金を横領したのが云々っていうのは嘘だったのか」
小野「紫村の家を襲った後、その掛川が、どこかに電話掛けてて…『鴉はこっちで捕まえた』って言ってたんです」
黒宮「鴉?…紫村圭司は殺し屋だった…?」
三鷹「蜥蜴みたいに、逆らったから殺されたのかも。ヒイラギも気をつけた方がいいと思うね。マズイことやっちゃったらアンタの彼女さんたちも殺されちゃうから」
如月「うわー…。業界ってそういうとこえげつないよね…。その点、宮ちゃんは殺される相手いないから良いよね〜」
黒宮「もう死んでるからな」
三鷹「ちょっと、小野逃げたんだけど」
如月「えっ、マジ?」
いつの間にか、小野はマンションの前の交差点まで辿り着いていた。案外と足が速い。
三鷹「ヒイラギ!走れ!!」
如月「無茶言わないでよ〜…」
文句を言いつつ、如月は本気で小野を追いかける。
運動不足であろう小野と、普段から走ったり殴られたり殴ったりと忙しい如月では、圧倒的に如月の方が速い。
横断歩道を渡り、後少しで追いつく、と思ったその瞬間、小野は飛んでいった。
如月「え?」
比喩などではなく、物理的に4mほど飛んだ。
地面にバウンドしてから、彼を飛ばしたトラックのタイヤが彼を踏み潰す。
三鷹「…『貿易社』から連絡があったか聞き損ねたわ」
死体のそばには野次馬が集まり始めていた。
如月が三鷹と黒宮のところまで戻ってくる。
如月「宮ちゃん、あの6人って後何人残ってる?」
黒宮「…0」
如月「そっか。…誰か動画とか撮ってないかな…」
三鷹「撮ってなさそうね」
如月「宮ちゃん、水母がいるかわかる?」
黒宮「この距離だと流石にわからない…」
パトカーのサイレンが聞こえてきた。誰かが通報したようだ。
三鷹「とりあえず、『会社』で防犯カメラとか調べてもらう?…あと、誰かに頼んで小野のパソコンのデータをコピーしてもらわなきゃ」
如月「早く終わらせたいのに…」
黒宮「早く終わらせたいのならこの『仕事』は諦めろ」
如月「お金は欲しいんだよね〜」
黒宮「強欲…」
三鷹「『金のために殺す』ってこと?あたしが言えることじゃないけど…人としてどうかと思うわ」
如月「お金のために殺すわけじゃないって笑」
黒宮「理由もなく殺す、と?」
如月「サイコじゃん!俺サイコじゃないからね!?」
三鷹「こんな欲に満ちたサイコっているの?」
黒宮「さあ?」
三鷹「日本人はエンパスが多くて、サイコパスはアメリカ人が多いみたいだから…ヒイラギ、アメリカにいってみない?」
如月「なんか裏切り者って疑われそうな行動すすめないで!?俺殺されちゃうよ!?」
三鷹「まあ、殺し屋全員撃退したら良いんじゃない?」
如月「三鷹ちゃん撃退とか出来ないんだけど…」
三鷹「そんなんだとそのうち足元掬われて死ぬと思うけど?」
⁇?「躊躇なく殺せるようにしておかないと」
如月「怖いこと言わないでよ〜…」
三鷹「そうでなきゃ、この業界では生きていけないに決まってるでしょ……って、アンタさらっと話に入ってきたけど誰!?」
黒宮「水母…」
如月「待って俺もうヤバいかも…そろそろ引退かな…。というか三鷹ちゃんノリツッコミ出来たんだね…」
水母「引導渡して差し上げましょうか」
如月「嫌だよ!?」
三鷹「何の用?アンタ、『貿易社』側って聞いてるけど」
水母「金払いが良いからついているだけです」
如月「金のために人殺してんの…」
水母「人が多すぎるから殺しているだけです」
三鷹「…は?」
水母は怪しい笑みを浮かべた。
水母「人が虫を殺すのと一緒です。邪魔だから、殺すだけ」
黒宮「……お前の言い分は理解できない」
水母「私も貴方の言い分は理解出来ません」
踵を返し、表通りに出ていく水母。少女のような後ろ姿が雑踏に紛れて消えていく。
三鷹「…なんなの、アイツ」
黒宮「…人嫌いのサイコパスだと思っている」
如月「人嫌い笑 やっぱ人って変わんないもんなんだなぁ」
三鷹「え?」
如月「え?なんかあった?」
三鷹「…何でもないわ」
如月の、過去の水母を知っているような口振りに違和感を感じたものの…恐らく、仕事で共闘したか、鉢合わせたかで知っていたのだろう。
三鷹「さっさと帰って、色々調べなきゃ。ヒイラギも手伝うよね?」
如月「俺、このあとユウリちゃんとデートしたいんだけど」
三鷹「は?仕事優先!!」
如月「えええーっ!!」
黒宮「仕事が終わるまで我慢しろ」
如月「無理だってえ…。俺、今日休みだったのに……」
休みなのに律儀に待ち合わせにやってきたあたり、如月も『仕事』のことはちゃんと考えているのだろう。なんだかんだ、中身は真面目な部分もある彼らしい。
…大部分は見た目通り軽薄な人物だが。
過去最長の長さ…w
テキライで来てくださった方々、ありがとうございました!!
次の更新は土曜日の予定です〜