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7 - 溺死
ドブン、と水が踊る音がした。
音のする方を振り返る。
ここの公園には、池がある。
池、と簡単に言うが、深さはそこそこあり、そして広い。幼い子が見れば、湖のように見えるだろう。
だが、ここは奥ばっている。人は滅多に近づかないし、幼い子なら|尚更《なおさら》だ。
柵にもたれて、見下ろした。
ブクブク、と泡立っている。ギンギンと照りつける太陽の光に 反射してきらめき、そして水面に浮かんで消えていく。
水面の下で、何かが|蠢《うごめい》ている。伸ばされた五本が、ふらふらと動いている。
やがて見えなくなった。
水面の下で、何かが揺られている。
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一日経った。相変わらず、何かが揺られている。
ぶよぶよしているみたいだ。
……あれは顔? まるで、巨像じゃないか。
四日経った。たまに、プカプカと泡が浮かんでいる。
水面に消える瞬間、鼻につくような衝撃を感じ、慌てて池から飛びのいた。
七日経った。呼吸を止めて、|覗《のぞ》き込む。
黒い毛が水面に散らかっている。
十日経った。もう、呼吸を止めても、目がしみるほどの臭いだ。
白い棒が、ゆらゆら揺れている。あれは、骨?
十一日経った。ゴーグルとマスク数枚。
水の中で良かった。露出していたら、これと比でないほどの とんでもない臭いであろう。浮いてこなくてありがたい。
十五日経った。ドロドロに溶けているのが分かる。
触らずとも感じられるほど、水が|粘《ねば》りついているからだ。
十九日経った。久しぶりに覗き込んだ。
もはや、ゴーグルとマスクごときでは太刀打ちできない。
胴体がぶよぶよして溶けている。
|剥《む》き出しになった頭蓋骨に、|苔《こけ》が生えている。
四肢はとっくに、骨だけだ。|藻《も》が張り付いている。
顔という概念は無い。
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二十日経った。
そういえば。
———コイツは、一体いつ服を脱いだのだろう?