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致命傷、熱中症
ジリジリと肌を焼いていく太陽、森から聞こえる蝉達の大合唱。
靴の底を溶かす|鉄板《アスファルト》の上に転がっている干からびたミミズ。
その日は学校の解放プールの日で、帰り道がとても長く感じた。
せっかく涼んだというのに太陽は容赦なく日を振りまく。
すでに肌は汗ばみ、水分不足で脳みそがジリっと嫌な痛みを起こす。
水筒の中身は既に空。こんな田舎に自動販売機なんかあるわけもなく。
自宅という名のオアシスまで足を引きずっている。
「…。」
何か、避暑できるような日陰はないだろうか。
ふくらはぎ部分がかなり痛む。一旦座って休憩を取りたい。
目に見えるものは、輪郭が何重にも折り重なっている。
ゆっくりと周りを見渡してから、大きな木の下に出来た影の元へ向かった。
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太い幹に背中をつけて、ふうっと一息つきながら座り込む。
家までまだ遠い。道のりのことを考えると余計に頭が痛んだ。
こんなことになるのなら、もっと水筒に水を入れておくべきだったか。
今更考えたってあとの祭り。これからは、そうしよう。と未練を断ち切る。
さて、ここからはどう進んでいこうか。
このまま日に浴び続ければ熱中症で倒れてしまう。
かと言ってここに夜まで待機することは現在の体力的に不可能。
夜より、今際の際の方が近い。
周りの人に助けを求めることも不可能。
こんなあぜ道を歩くような人間は自分以外に居ない。
真夏の昼なんて最も人が寄り付かない。
現状、最適解は休みつつ先進すること。
日陰はある程度木が作ってくれるのでそこへ避難する。
こう考えると、森の中を進めば良いだろうと思う。
だが森の中はとても危険だ。
最近では深夜徘徊していた近所の爺さんが森のクマに食べられたとか騒いでいた。
森へ入った最悪の場合、爺さんと胃袋の中で顔を合わせることになってしまう。
それに危険な虫も生息しているので森の中への侵入はやめておく。
「…。」
覚悟を決めて、立ち上がる。
キーンと甲高い耳鳴りが脳を貫き、立ち眩みを起こす。
グラつく足と視界に数分間耐えて日陰から出た。
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ミーンミンミンミン…、ミン。
歩いて数分、耳が聞こえづらくなってしまった。
絶え間なく鳴いている蝉の声が少しずつ消えていく。
考える力も無くなって、ひたすら無心で歩き続けた。
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「…。」
いま、どこまで歩いたのだろうか。
足どりはゆっくりになって、一歩一歩が地面にしずんでいく。
しかいもぼやけてどこにいるのかさえ、分からない。
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気がつくと、床に伏せていた。
頬が熱い。地面に焼かれてジュクジュク溶けている。
「…。」
地面に転がっている塗装の剥げた水筒は、落ちた衝撃で少し凹んでいた。
透明のプールバッグの中身が地面にぶちまけられている。
濡れた水着の水分が、地面に吸収されてどんどん干からびていく。
現在の自身もきっと水着のようなものだろう。
日に、地面に水分を取られて干からびて。最終的に動けなくなり風化する。
自然の理論上、人間の倫理上それを『死』と呼ぶ。
手足は動かない。頭も働かない。
田んぼの干からびて割れた土をぼんやりと眺めた。
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みみず、あれと今は同じ状況だ。
ずっとそれだけが頭の片隅に置いてあった。
がんがん痛む、脳みその痛みさえ既に麻痺しかけている。
ほんの少しだけ体が楽になっている。
し、へ近づいているからだろうか。
いまわ、の際。そう言うことだろうか。
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「…。」
日と地面。体を両面焼きされながら目を閉じた。
ああ、脳さえも焼かれているのが分かる。
これで終わるのか。
最期の瞬間へ近づいているのが身に染みた。
明日は何をしようか。
来るはずのないことを考えながら、意識を手放す。
7月28日、快晴38℃。12時54分。あぜ道で■■。