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本編26
目が覚めた
ここはどこだ
病院の天井が見える…
………というパターンが多いと思うが、オレは少し違った
真っ暗で、何も見えない
自分の手や足さえも見えなかった
「……さすがに…死んでるとかは…ないよな…」
一発殴られただけで死にはしないだろう、多分
「…はは、とんでもなく運が悪いな」
学校に行かなくなってから、もう半年は経つ
オレの事なんて忘れてる、前よりマシになった
そう思っていたのに
「ここにずっと居たい、なんて」
「思ったら、怒られるだろうな」
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「お兄ちゃんっ!!!」
家の近くで、倒れてるお兄ちゃんを見つけた
「な、なんで…しっかりして…っ」
どうすればいいのか分からなくて、変な汗がずっと出てた
うまく舌が回らなくて、それでもなんとか救急車を呼んだ
救急車が必要なのか、そうじゃないのか……パニックで頭が真っ白になり、考えることができなかった
病院に着いて、お医者さんにお兄ちゃんのことをいろいろ聞かれた時も、受け答えが難しかった。
『栄養失調、貧血、そしてストレス。大きな原因はこの辺りだと思います』
全部、心当たりしかない
いちばん近くにいたのはアタシなのに、なんで気づけなかったんだろう
いつもそうだ
大切な人が苦しんでる時、気づくのが遅れる
「……ごめんなさい…っ」
ベッドで眠っているお兄ちゃんの手を握り、アタシは自分を責め続けた
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「これ、センパイがやったんですか?」
「酷い怪我…司先輩、流石にこれは…」
「…俺も、庇いきれません」
まて、違う
オレは何もやってない、何も……
「立てる?保健室行かないとだよ!」
「最低っすね、そんな人だと思ってませんでした」
嫌だ、やめてくれ
喉の奥がぐるぐるして気持ちが悪い
オレはそんなことしない、冬弥なら、冬弥ならきっと信じて…
「もう関わらないでください、ずっと尊敬してきた俺が馬鹿でした」
「あ…………っ」
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「ああああああああッッ!!!!!」
「…う、っはあ…っ…はあっ……あ…」
頭がぐらぐらする、冷や汗が止まらない
さっきのは何だ?
彰人も、暁山も冬弥も……
「言ってないよな…思ってないよな、そんなこと………」
「だって…っあいつらは…」
オレの味方だ、と言ってくれた
オレを信じてくれた
あれは悪夢。現実なんかじゃない
そう思っても、不安と恐怖は消えなかった
「…っ、気分悪…」
ゆっくり起き上がって周りを見渡す
やはりここは病院だ
「あ…お、お兄ちゃん…っ!!」
「咲希…?なんで…」
「よかった…死んじゃうかと思った…っ」
ボロボロと涙を流す妹の姿は、何度見ても心が痛む
「すまん咲希、オレのせいだ、全部……いつも迷惑ばかりかけて本当に申し訳な……」
「違うっ!!!アタシがすぐ気づけなかったから…!」
「ごめんなさいお兄ちゃん、ごめんなさいッ…」
そう言って自分を責めないでくれ、
咲希は何も悪くない
「お兄ちゃん、どこか痛いところとかない…?ほんとに…大丈夫…?」
「……ああ、大丈夫だ」
「その、とーやくんにも連絡したから…もうすぐ来ると思う…!」
「そうか…わかった」
今日が土曜日でよかった
平日だったら、また学校をサボらせてしまう
「あそうだ、看護師さんに、お兄ちゃん目覚めましたって伝えにいかないと…!」
「ありがとう…すまんな、咲希」
「謝らなくていいってば!まかせて!」
そう笑って、咲希は部屋を出て行った
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「司せんぱーい!!!」
「ちょ、おいバカ、ここ病院だぞ静かにしろ…!」
「だってほんっとに心配だったんだもん!!大丈夫!?」
数十分後、冬弥達が来てくれた
息を切らしている、わざわざ走らせてしまったな……
「もう大丈夫だ、相変わらず元気だな暁山」
「こいつは元気《《すぎる》》んすよ…」
「それで…ほんとに大丈夫なんですか?何があったのかよくわかんねえけど…」
「あ………」
思い出すだけで、ギュッと胸が苦しくなる
あの時の空気、あいつの声、表情
一生忘れられないだろう
「つ、司先輩……」
「別に無理に話さなくてもいいですけど、その…やっぱり俺らは心配なんで」
「……………………」
喉が詰まる
何から説明すればいいのかわからない
何を言えばいいのかわからない
「……っ」
それでも、
信じると言ってくれた冬弥達を、オレもまた信じたい
「…昨日…会ったんだ」
「あいつに」