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恋愛イベント
あれからまた少し日が経ち――
「検知しました」
朝から天使が真顔だった。
「……何を」
「恋愛イベントです」
「は?」
寝起き五秒で人生のジャンルが変わった。
◆ 朝の時点で不穏
「ついに来たか」
悪魔がやたら嬉しそうに言う。
「来てない」
「高確率で加点対象です」
「やめろその評価制度」
「本日、重要分岐点となります」
「朝から怖いこと言うな」
俺の人生、なぜ毎回会議案件なのか。
◆ 身に覚えがない
「いや待て待て待て」
俺は冷静に状況を整理する。
「相手誰だよ」
「現在特定中です」
「検知だけ先行するな」
悪魔が腕を組んだ。
「昨日の下校時、異常な反応があった」
「異常って言うな」
「心拍変動」
「言い方!」
「視線の揺れ」
「分析が細かい!」
「典型的な兆候です」
「なんの研究機関だよお前ら!」
◆ 学校という戦場
教室。
「……普通だ」
何も変わらない日常。
何も起きていない平穏。
「対象確認」
「やめろ怖い」
「候補A」
「候補って何」
天使が淡々と告げる。
「斜め前方の女子生徒」
「誰!?」
言われて見てみる。
普通のクラスメイト。
話したことはある。
名前だって苗字にさん付けで呼ぶ。
だがそれだけだ。
「いやいやいやいや」
「休み時間にこちらを見る頻度が高いです」
「偶然だろ!」
「照れていますね」
「違うわ!」
悪魔がニヤつく。
「青春だなぁ」
「勝手に始めるな!」
断じて違う!
◆ 誤検知の加速
「……いや待て」
違和感。
妙な感覚。
「候補B」
「増えた!?」
「後方右側の女子生徒」
「だから誰!?」
見れば――
あ。
「……あいつ?」
「認識しましたね」
「いや別に!」
中学から一緒のただのクラスメイト。
よく話す。
距離感が近い。
呼び方は苗字の呼び捨て。
だがそれだけだ。
「反応が変化しました」
「実況やめろ!」
「確率上昇」
「数値化すんな!」
◆ 当事者不在ラブコメ
休み時間。
問題の候補Bが話しかけてきた。
「あの、佐倉さん」
「っ!?」
悪魔がニヤリと笑う。
(来たぞ)
(来てない)
「消しゴムを貸してください」
「……え?」
「消しゴム」
「……あ、はい」
完全に日常会話だった。
何も起きていない。
「高度な駆け引きですね」
「違うわ!」
◆ 検知システム暴走
「お前ら絶対間違ってるだろ!」
俺は2人に向かって叫ぶ。
もちろん頭の中で。
「誤検知ではありません」
「兆候は揃っている」
「揃ってねぇよ!」
その時――
「佐倉」
また呼ばれた。
候補A。
「ノート見せて」
「……え?」
「数学」
「……あ、はい」
なぜ今日に限って全員話しかけてくるのか。
「修羅場イベント検知」
「やめろぉぉぉ!」
◆ 世界のバグ
昼休み。
俺は机に突っ伏した。
「マジで……意味わからん」
「進展が見られません」
「もとから何もないから当たり前だろ!」
「停滞は減点対象だぞ」
「そもそも違うって!」
「積極性が不足しています」
「なんの評価!?」
◆ 致命的な真実
放課後。
やっと帰宅。
そして判明する。
「……え?」
俺は固まった。
天使が書類を見て苦笑いしている。
その表情が、妙に気まずい。
「訂正があります」
「嫌な予感しかしない」
「本日の恋愛イベントですが」
「おう」
「……誤検知でした」
沈黙。
「は?」
悪魔が吹き出した。
「ブハッ」
「笑うな!!」
「類似反応との誤認識だ」
「なんだよそれ!?」
「原因は」
天使が淡々と言う。
「テスト結果による緊張状態」
「恋愛関係ねぇぇぇ!」
◆ 今回の結論
「つまり」
俺は聞いた。
「全部勘違い?」
「はい」
「頑張ったよね俺!?加点されたりしないの?」
「プラマイ0ですね」
「壮大な無駄イベントだったな」
「返せ俺の精神力!!」
悪魔が笑う。
「まぁいいじゃねぇか」
「よくない!」
「青春の予行演習だ」
「勝手に俺の人生を試運転するな!!」
――こうして。
俺の平穏な日常は。
今日も意味不明な査定に振り回される。
規約違反レベルで。
本当に。
いい加減にしてほしい。