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第6章:星の涙《ピスケスの記憶》
水の湖は、鏡のように静かだった。 風もなく、波もなく、空の星々が水面に映っていた。 だが、そこには一つだけ、映らない星座があった。 ピスケス座――うお座の星霊は、湖の底に封印されていた。
ルミナは、湖のほとりに立っていた。 秋の都を後にしてから、彼女の心は静かに沈んでいた。 星霊の声は、囁くように彼女を導いていた。
「彼女は、涙の中に眠っている。 幻と現実の狭間で、赦しを求めている。 あなたの優しさが、彼女の記憶を解く鍵となる」
湖の中心に、小さな祠が浮かんでいた。 ルミナは、星光の翼で水面を渡り、祠に手をかざす。 冷たい水の気配が、彼女の心に流れ込む。
「私は夢を見ていた。 誰かを傷つけた記憶を、何度も繰り返して。 私は幻の中に逃げた。 現実が怖かった。 星霊となった私は、湖の底で眠り続けた。 あなたは、私の涙を受け止められるか?」
ルミナは、静かに祠に手を添えた。 彼女の心にも、逃げたくなる記憶があった。 誰かを守れなかった後悔。 誰かを傷つけてしまった罪。
「私は、あなたの涙を受け止める。 幻に逃げることも、赦しを求めることも、弱さじゃない。 それは、優しさの証」
その言葉に、湖が揺れた。 水面が輝き、祠が星光に包まれる。 ピスケス座が、夜空に戻る。
ルミナの周囲に、水の幻影が現れる。 敵の攻撃がすり抜け、味方を守る。
ピスケス・ミラージュ:一定確率で敵の攻撃を無効化(幻影付与)。
星霊の声が、優しく語る。
「あなたの優しさが、私の幻を溶かした。 涙は、星を曇らせるものではない。 次に待つ星霊は、時を刻む者。 彼は、過去と未来の狭間にいる。 あなたの覚悟が、彼の封印を解く鍵となる」
ルミナは、水の湖を後にした。 空には六つの星座が輝いていた。 だが、次に向かうのは――時の階段。 そこには、封印された星霊《カプリコーン(やぎ座)》が眠っている。