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マッチポンプ ・祖父 ・自問自答
マッチポンプってなんだろー。語彙ないんで。
☟マッチポンプとは☟
自分で火(問題)をつけておいて、自分でポンプ(消火・解決)の水をかけるという意味から、利益や評価を得るためにわざと自分で問題を起こし、それを自分で解決して良い人や有能な人を装う自作自演の行為。
だそうです。
マッチポンプ一択だな。
最初の火事は、誰も気に留めなかった。
古い物置が一棟焼けただけだったからだ。
六月の終わり、雨上がりの蒸し暑い夜だった。町外れの畑の脇に建つ木造の物置から火が上がり、近所の住民が通報した。消防車が到着した頃には屋根が落ちていたが、延焼はなく、けが人も出なかった。
翌日の朝刊には、小さな記事が載っただけだ。
『深夜に物置全焼』
見出しはそれだけ。
原因は漏電か、不審火か。調査中。
ありふれた地方ニュースだった。
だが、その記事の写真を見たとき、私は妙な違和感を覚えた。
炎を背に立つ一人の男。
消防団の制服を着た青年だった。
ホースを握り、濡れた髪を額に貼り付かせながら、まっすぐ火を見据えている。
写真として出来すぎていた。
まるで映画のワンシーンのように。
「また佐伯悠真か」
編集部で朝刊を広げていた先輩記者が言った。
「また?」
「知らないのか。佐伯悠真。消防団の若いやつ」
私は首を振った。
「最近、地元じゃちょっとした有名人だよ。去年の住宅火災でも住民を助けて表彰されてる」
先輩はコーヒーをすすった。
「しかも顔がいい。新聞社もテレビも好きそうなタイプだ」
私は写真に目を落とした。
二十代後半くらい。
整った顔立ち。
燃え上がる炎に照らされ、その横顔だけが鮮明に浮かび上がっている。
「英雄ってやつですか」
「そうそう。町の英雄」
先輩は笑った。
「平和な町にはちょうどいいだろ」
そのときの私は、深く考えなかった。
まさか、その三週間後に同じ男の写真を再び見ることになるとは。
そして、その写真が今度は別の火事現場で撮られたものだとは。
まったく想像していなかった。
七月の半ば。
二件目の火災が起きた。
深夜一時。
今度は商店街の外れにある空き家だった。
出火から十分ほどで消防団が到着し、延焼は阻止された。人的被害もなし。
翌朝、私は現場に向かった。
焼け焦げた木材の臭いがまだ残っていた。
規制線の向こうで鑑識が写真を撮っている。
近所の老人たちがひそひそと話していた。
「最近、多いな」
「放火じゃなきゃいいが」
私はメモを取りながら歩いた。
そして、規制線の脇で立ち話をしている消防団員たちを見つけた。
その中に、例の男がいた。
佐伯悠真。
彼は周囲の団員たちに肩を叩かれ、笑顔で何かを話していた。
「佐伯さん!」
近所の主婦らしい女性が駆け寄る。
「今回もありがとう。本当に助かったわ」
「いえ、皆さんが無事でよかったです」
穏やかな声だった。
作り物めいた愛想でもない。
主婦が去ると、彼はふとこちらを見た。
一瞬だけ目が合う。
その瞳は笑っていた。
だがなぜか私は、背筋に小さな寒気を覚えた。
理由はわからない。
ただ、その笑顔が妙に完璧だったのだ。
まるで。
——すべてが予定通りに進んでいることを知っている人間のように。
へへ。