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5 - 餓死
お腹が空いた。
という感覚があったのは、もうずっと前の話。
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|濁《にご》りだした瞳で、部屋を、見回す。
誰も、いない。あたしだけ。
プウーンと、|忌《い》まわしい、音がする。
ぐるぐるぐるぐる、何かが飛んでる。
一、二、三、四。ああ、たくさん。
|蠢《うごめ》いてるな。いるみたい。
最後に、ゴミ出したの、いつだっけ。
あれ、これは、いったい、何?
そうだ、あたしの腕だ。あたしの足だ。
茶色で、ぬるぬるしてて、気持ち悪い。
最後に、風呂入ったの、いつだっけ。
細くて細くて、骨が浮き出て、枝みたい。
肉は、とっくに、無機物に。
消えた、のかな? 分かんないや。
最後に、食べたの、いつだっけ。
口の中に、感覚は無い。
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———ああ、眠たいな。
ゆらゆらゆらゆら、何かが揺れる。
そうだ、ここは、夢の中。
ふわふわ、浮いてる、あれは何?
皮の張り付いた、|骸骨《がいこつ》がいるよ。
たくさんたくさん、|集《たか》っているよ。
召し上がれ、あたしのからだ。
召し上がれ、|醜《みにく》いあんたに。
死を望むように、飛び回るあんたに。
ここは誰にも、見つからないよ。
召し上がれ、あんたの|餌《え》となれ。