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15.混乱とミレアの助け
聖女リオンと会った次の日。
王都は混乱に包まれた。
「号外だ! 号外だよー! なんと、我が国の第一王子が、国王陛下を殺して、国王になると宣言したよー!!」
情報屋は、仕事で忙しそうだ。
そして、その周りにいる人たちはこぞって号外をもらいに行っている。
「明日、新国王からお言葉が下るらしいぞー!! 広場の前だ! 明日は予定を開けて広場に行こう!!」
私は、窓からそれを覗いていた
どんどん情報が広まっていく。
明日か……
まああまり期待しないほうがいいな。
「エリーゼ、号外もらってきてくれる?」
「かしこまりました」
さてさて、どんなことが書いてあるのか。
「聖女ミア」
呼ばれて振り返ると、ミレアがいた。
「どうしたの?」
「話が、あります」
ミレアは、いつもと違い、はっきりと喋った。
「ここでいい?」
「はい」
「どんなこと?」
「とらえられていた時のことです」
はきはきと喋るミレアは、昨日までのミレアを知っているために、ミレアに見えなかった。
「聞きましょう」
ここで茶化してはいけない。
私は聖女ミレアに向き合った。
「始めのころは、脅されて強制的に魔法を使わされていました。そして、それが嫌でした。
だけど、ひどい怪我をされることはなくて……その前に私が諦めて魔法を使ったからですけど……そのときはこの体質に感謝しました」
大聖女ミアがやったことは間違いではなかったんだ。
そのことに安心した。
「ある日、あの人たちの声が聞こえてきて、この組織の目的が今の王家を壊すことだと知りました。少なくともこの国で動いている組織はその目的で動いていそうです。
そして、その目的に同意してしまって、最後のころは、少しの痛みで聖魔法を使うようになりました。
両親のことを考えると、組織に同意はしていてもやはり少しは抵抗しておくことが必要だと思ったので。
だから、最後のころの私の待遇は、多分、思われているほど悪くありません。
ただ、このことは助けてくれたミア様を裏切ることになるかもしれないので……今まで言えませんでした」
「そう、話してくれてありがとう」
そっか、私に遠慮していたんだ。
「それで……」
あ、まだ話は続いているみたい。
「国王陛下が殺された今、彼らが仕掛けてくる可能性があります」
……こっちの方が本題っぽいな。
「それは、王子暗殺を?」
「多分そうです」
「あまり関わりたくないな……」
「私も同じ気持ちです。ただ、ミア様が私を助けてくれたので、恩返し的なもので警戒するように伝えに来ました。それだけです」
そう言って、ミレアは目を伏せた。
「ミレア」
手を彼女の顔に当て、目を合わせる。
「話してくれてありがとう。注意しておきますね」
ミレアは、数秒目をおろおろさせたが、
「はい」
最後には目を合わせ、そう返事してくれた。
近づけたみたいで嬉しい。
◇◆◇
その日のうちに、また彼らに会いに行くことにした。
「こんにちは」
「……こんにちは。忙しい聖女サマが一体何の用だ?」
「この前言っていた面白いことが起こったので伝えに来たまでです」
「面白いこと?」
「はい。もうほとんどの王都に住んでいる人に知られていることですが」
「おれたちは知らないがな」
あはは……
「あなたたちは自業自得です」
「そうか、それで何なんだ?」
「第一王子が、国王陛下を殺したそうですよ」
「……ほう?」
「面白そうなことが起こっているじゃねえか」
「そうでしょう?」
ホント、王宮の方に行かないですんで良かった。
佐藤さんは……どんな立場になるのだろうな。
「そして、これを機にあなたたちのような組織が動き出すかもしれません。ちなみに、第一王子のその行動の理由はまだ明らかにされていません。
ですが、明日、広場にてお言葉を下すそうですよ」
「何か起こりそうだな」
「ですよね。まあこれを伝えに来ただけです。つまらない獄中ですが、これからの展開を予想したりして楽しく過ごしてくださいね」
そう言って出口に歩みだす。
「なあ」
後ろから声が聞こえた。足を止める。
「何ですか?」
「なんであんたはこちらにいい情報を教えてくれるんだ?」
「いい情報? 私が面白いな、と思ったことを伝えただけですよ。後は、その瞬間を見れないあなたたちの悲しみでも見ようと思ったんですけど……無駄足でしたね」
「嘘言うな」
うん、嘘だ。私の性格はそんなにひねくれていないと思う。
「初めの時に言った通りですよ。それに、あの佐藤さん……ユウナに絆されるような国は終わりだと思っていますから」
そう、この国のために魔法を使いたく……な……い……。
!?
「ではまた。いい発想をありがとうございます」
「発想? どういうことだ?」
後ろで彼らが何かを言っているが、それにこたえる暇はなかった。
そう、これだ!
これがあれば、いろんな問題が解決する!
聖女が、自分の意思でなくては魔法を使えないようにすればいいんだ!
そしたら、国は聖女に魔法を使ってもらえるような国になる。
組織も、聖女に魔法を使ってもらえるような待遇を取るだろう。
これしかない!
いつの間にか、そこまで強く思うようになっていた。
……まあ、意思、というのが分かりづらいとこなんだけど。