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第四話
「おはよ」
昨日のことなどまるで無かったみたいに挨拶をした彼。
「お、おはよ……」
対照的に私は目を合わせることができず、なんとか言葉を絞り出した。
けれど、彼はそんな様子など全く気にしていないようで。
「今からの講義同じだよね?隣いい?」
「……どうぞ」
ガタッと音を立てて腰を下ろす。
端正な横顔に、私は見とれてしまった。
「どうしたの?じっと見て」
「えっ!?いや、何も……」
「……もしかして」
不意に、彼の顔が近づく。
耳に息がかかって、少しくすぐったい。
「昨日のこと、思い出しちゃった?」
そう言われた瞬間、ブワッと体が熱くなって。
無意識に体が震える。
まるでスタンガンを当てられたかのように、ビリビリとした感覚が私を襲う。
「……ごめんっ!」
それ以上何も言えず、席を立ってバタバタと部屋を出た。
ああ、これから大事な講義だというのにどうしてくれるんだ。でも、あんなことを言われたらもうそれどころじゃない。
私は御手洗に駆け込み、勢いよく扉を閉めた。
立て付けが悪いのか、扉が少し変な音を立てた。
しかし、そんなことは今の私にはもうどうでもよくて。
壁にもたれかかり、首まで真っ赤になっているであろう顔を手で覆う。その熱は手までも伝わってきた。
「何なの、あれ……」
そう呟き、へなへなと座り込む。
「あんなの、心臓持たない……蓮くん、昨日のことちゃんと覚えてたんだ……」
あれだけ女の子に人気の彼だ。もしかしたらただの口説き文句のようなものかもしれないが、それでも私の心臓は収まることを知らない。
「……好き、だなぁ」
昨日のことは忘れられないし、今日はあんなことを言われてしまった。
……けれど、好き、という気持ちはどんどん膨れ上がっていく。割れることを知らない風船みたいだ。
「この後、どうしよ……」
講義をすっぽかす訳にはいかないが、この顔で人前には出られない。
どうせ誰も私のことなど気にしないだろうが、恥ずかしいものは恥ずかしい。
……結局、冷水で顔を洗い教室に戻ることにした。
心做しか顔だけでなく心も引き締まった気がして、少しの自信を持って廊下を歩く。
講義がまだ始まっていなかったのがせめてもの救いだ。
彼と、目が合った……気がする。
隣に座る気にはなれず、でも彼を見たいという気持ちもあり、二列後ろに座った。
……なんという単純な奴だ。彼の全てに負けてしまっている。
すると、不意に彼は私の方に振り返りにこりと笑った。
ただ、それだけなのに。
さっきより離れているしただ笑いかけられただけ、もしかしたらそれも私の勘違いかもしれないのに。
さっきの引き締まった気持ちはどこへやら、また身体が熱くなった。