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【第二話】~観測者は笑っていた~
『導座の中枢で、見知らぬ幼子に出会った2人。
「恩人に会いたい」その願いは神が見下ろす通路で世界が静かに動き始める。』
今日は散歩に出た。
作業室から中庭、中央階段などいろいろな場所を歩いた。
同じ歩き方でも床の素材によって足音が変わる。
長年ここにいるのに知らなかった。
「あっ…あのっ!」
2つの足音が止まる。
イルは声の向くほうに振り向いた。
そこにいたのは見知らぬ2人幼子だった。
「誰だ」
相手を刺すような声でイルはそう言う。
「あっ…えっと…その…」
1人が情けない声をあげたの思うともう1人が口をかけた。
「お、俺たちある人に会いに来たんだ!案内してくれないか?」
何を言ったかと思えば1人は続けてこう言った。
「あんたここにいるってことは導座の関係者ってことだろ?!頼む!俺たちの恩人に合わせてくれ!」
愚かだと思った。
この様子だとこいつらは不法侵入者」だ
それをあいつら護座や伏座が見逃すわけがない
となると…
「わざとか。」
イルは小さい声でそう言った。
「な、何か言ったか?」
子供が不安げにそう聞くとノルは答えた。
「いいよ。連れて行ってあげる。」
ノアは冷たい目でそう言った。
「おっ、お兄さん本当?!」
そう言ったのは先程おどおどしてたほうの子供だった。
「これであの人に会えるな!」
「うん!」
2人はめっぽう嬉しそうに顔を合わせ、走り出した。
「ノア連絡」
冷たい声でそう言う。
「はい。」
そう言うとノアは何にも触れずに連絡をした。
「伏座案件。表に出すな。」
それだけを言い子供たちの背を追いかけた。
「…名前は」
イルは後ろからそう聞くと2人は立ち止まり弾ける笑顔で明るく答えた。
「俺《カイ》!」
「わ、私《ツクヨミ》と言いますっ!」
そのときだった
『ピロピロピロ…ピロピロピロ…』
「カイ、ツクヨミ」
イルが名前を呼ぶと2人は声を合わせてそれに答える。
「何っ!」
「少し待ってろ。絶対に動くなよ。」
2人は目を合わせた後またイルに顔を向け声を発した。
「おう!任せとけ!」
「は、早く帰ってきてね…」
「ノア、お前もここにいろ。」
「はい。」
それを聞くとイルは通路の角入って行った。
「今更なんのようだ。《観測者》。」
イルは呆れた声でそう言う。
『そんなに怒らないでよ〜。せっかく連絡してあげたのにひどくない〜』
耳から聴こえてきたのは男の陽気な声だった。
「何のようだ?」
『それ聞く必要ある?』
その言葉は狂気に満ちていた。
『レイヴァルくんのことだ、大体予想はついてるんでしょ』
「まあな…」
『じゃあ切るけど、何かあったら連絡してね。』
「ああ…」
そう言ってイルは通話を切り、小さな声でつぶやいた。
「全部見てるくせに…」
この男はどうにも気に入らない。
年下だからと甘く見ている訳ではないだろうが、どうにも癪に触る。
それに…
イルは2人がいる場所に向かった。
「おい、ノア。カイはどこに行った。」
そこにいたのはノアのツクヨミだけ。そこにカイはいなかった。
「導座の姿が見えなくなった瞬間どこかに走って行きました。」
ツクヨミが何かを察したのか少し怯えながな弁明した。
「わ、私はちゃんと動かなかったよ!」
それを聞いたイルはいつも通りの声色で言葉を返す。
「まだ何も言っていないだろう。」
そんな会話をしていると後ろからカイの声が聞こえてきた。
「あ、あの〜」
イルは振り返った。
「動くなと言ったはずだが。」
「い、いや別に早く会いたいな〜って思ってどっか行った訳じゃ…」
と、カイは怯えた声でそう言い顔を上げた。
一瞬カイの顔がこわばった気がした。
「な、何でお兄ちゃんの後ろにいた人形みたいな人もツクヨミも黙ってたんだよ!」
カイは必死に2人を責める。
「まあ。良い。ついて来い。」
イルは歩き出し、それにツクヨミがついていく。
カイがノアの服を掴み、小声でノアに声をかけた。
「ね、ねぇ。人形のお兄さん。お兄ちゃん怒ってるよね…俺が変なところ行ったから…」
ノアは無言で前を向きイルの背を追い始めた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
カイが必死で声をかけ、ノアの手を握った。
「ごめん…」
イルが静かに振りむく。その目は冷たく、言葉が見えなかった。
「……何がですか」
突然カイが驚く顔を見せた。
「……何ですかその顔は」
「え? いや…その…喋るんだって…」
少しして、ノアが答えた。
「……私も人間なので、言葉を発することくらいします。」
その後、カイがさらに顔が驚きで引きつる。
「えっ! 人間! 竜じゃなくて?!」
ノアは今まで何度も聞いたその言葉に疲れるように答えた。
「……ああ」
「もしかしてお兄さん、何かあった?」
カイが懸命に尋ねる。
ノアは無言で歩き続けた。その顔に感情はなかった。
歩く先にはイルとツクヨミの姿があった。
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通路の天井に小さな星が煌めいた。
だがイルはそれを放置した。
神が自分を導いていたとしても。
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ツクヨミは思った。
この名前を持つ私がこの場所にいて良いのか。
それでも彼女は信じていた。
恩人はきっと──