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#2 文字化けのバグ
「こちらがバグです。住所は…」
「個人情報でしょ、言わないほうがいいからやめてよ。あと長いだろうし」
ったく、わたしの遺伝子が入ってるから、ちょっとは人工知能くささがなくなると思ったのに、全然だ。
お菓子を棚にしまい込み、問題の場所へと移動する。
ネットが指さしたところは、四角い。いつものわたしの出入り口の形状なので、たぶんパソコンだ。白い光を放つところが、どす黒い紫色に染まっていた。ぱあっと放っているのではなく、うようよとくすぶっている。
「ふうん。バグ情報は?」
「だから、言っています。わたしは機械が主ですので、このようなバグの影響を受けやすいんです」
「へぇ…」
わたしは、紫のモヤの端っこに手を触れた。こうすると、呪文のように頭に来る。
『|軽野肖奈《かるのしょうな》25歳。ホームページクリエイター。ホームページが意図せぬ文字列に変化しており、意味不明ではなく悪意のある文字列。このページは|木田祐介《きだゆうすけ》に以来されて作成。木田は2か月前弁護士として自ら事務所を建設。その後』
そこで途切れた。その後、肖奈と祐介の悪意のある情報が流れ込む。これがバグらしい。
「うわぁ、悪質。こいつ犯罪者じゃん。捕まえてやれ!」
「このような行為は…」
「黙っててよ、冗談がわからないなぁ」
そう言うと、ネットは黙り込んだ。
「あ〜、どうしよ。だってわたしら、いっつも暇人じゃん」
時折文字化けが起こるだけで、それは大したことない。4年間で起こったことといえば、文字化けとあと通信環境が悪いのと、メールアドレスが現在使われていませんぐらいだ。こんな悪質なの見たことない。
「これ、ホームページ作成時にはちゃんとしてるんだろうけど、たぶんその後少ししたら改造されてるとかそんなんだよね?」
「パスワードが流出している可能性があります。速やかに対応するとなれば、まずは安心できるパスワードに変更するのが良いと思われます」
そもそも、バグはわたしたちが属する上の人間が見つけて、その雑務を押し付けられる形で解決する。こういうのは専門外だ。わたしたちはただ、機械的にやるだけ。それ以外の何でもない。
「わかった、取り敢えず安心なパスワードを提供する。あと、念のため警察にも通報しよう。なんかハッキングできない?」
「はい。パソコンなどから位置情報を調べると…」
|若野水春《わかのみずはる》、という男子高校生が暇つぶしに遊んでいたらしい。建設途中のホームページを見つけたので、悪戯してやったとか。
「学校も見つけたよね?なら通報しておく。…わかってるのに、どうしてねぇ…詰めが甘いんだわ」
「ホームページは1番下にパスワード入力欄があったそうです。そこにそれらしいパスワードを入れたらたどり着いた、と考えるのが良さそうです」
そう言いながら、わたしは肖奈に安全なパスワードを送った。もといた場所にあった、半透明なキーボードを移動させ、かたかたと打つ。完全に文字列は出鱈目だが、そのほうが突破は難しいだろう。
「あ〜あ、これで終わりっと」
そう言って、キーボードといっしょに移動した。クリップでとめたグミの包装。クリップを棚の空いたスペースにおき、ピンク色のグミを一つ食べた。いちごかりんごか分からなかったが、美味しかったのでまあ良しとする。