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奥一と夜空の某日
徳
「……おい、そこ座ると汚れるぞ」
奥一が土のついた軍手で顔の汗を拭いながら、背後に声をかける。
そこには、農作業用のコンテナを勝手に椅子代わりにして、最新のファッション誌を広げている夜空がいた。
「大丈夫だよ、これ奥くんのジャージ借りてるし。汚れたら洗ってね?」
夜空は小さな体を丸め、ページをめくりながらケラケラと笑う。
奥一は「チッ、勝手に持ち出しやがって……」と毒づくが、彼女が自分のぶかぶかのジャージの袖を折って着ている姿を見て、それ以上は何も言えなくなる。
「それより見てよ奥くん。今年のトレンドは『ボタニカル』だって。ほら、このモデルさんが持ってる葉っぱ、奥くんがさっき引っこ抜いた雑草に似てない?」
「……一緒にするな。それはただのペンペン草だ。こっちは食用だ」
奥一は溜息をつきながら、収穫したばかりの完熟トマトをバケツの水でジャブジャブと洗う。
そして、一番形のいい、真っ赤な実を一つ、無造作に夜空の鼻先に突き出した。
「ほら。……食うだろ」
「えー、洗いたて? 冷たーい! ……ん、甘い! 奥くんのトマト、見た目は地味なのに味だけはいいよね」
「『だけ』は余計だ。……っていうか、お前、口の端に種ついてるぞ」
「取って」
夜空が当然のように顔を突き出すと、奥一は「……手、汚れてるから無理だ」と顔を背ける。
だが、結局は綺麗なタオルを持ってきて、ぶつぶつ文句を言いながらも、壊れ物を扱うような手つきで彼女の頬を拭ってやるのだった。
「奥くんってさ、口は悪いけど手は優しいよね。そういうとこ、嫌いじゃないよ?」
上目遣いで、確信犯的に笑みを浮かべる夜空。
奥一は耳を少し赤くして、逃げるように再び鍬を握り直した。
「……うるさい。雑誌読んでるなら黙ってろ」
「はーい。じゃあ次は、この服に合う野菜、収穫してきてね?」
「……分かったよ」