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7.新たな出会いと質問
「よく来てくださった。私がこの家の主人、リガンド・ベアンクリスだ。初めてお目にかかりますが、活躍は私のもとにも届いています。ユミ様、これからもよしなに頼みます」
よしなに頼む?
今までこの人と関わったことはないのにこれを言われるの?
この世界ならではの表現なのかもしれない。
「今日は過去の聖女様についてのお話を聞きたいという用件で間違いないでしょうか?」
「はい」
「どのようなことが気になっているのでしょうか? 私ももう高齢である由、聖女様と関わっておきたいのですよ」
そういうことか。
だったら私のためになることをしようとしていることにも納得がいく。
「なぜ、聖女が今のように狙われる状況になったのですか?」
「……ほう、興味深いことをおっしゃる。初めの事件は1500年……いまから200年も昔のことでして、聖女様が一人、盗まれていきました。犯行動機は分かっておりませんが、彼らの手段は実に卑劣でして聖女様の脅しにすぐさま取り掛かったのですよ」
「護衛が強ければ聖女まで危害に遭うことはないのでは?」
「それがあのころから聖女様はごうまんでして、護衛がどうなろうとどうでもいい。護衛が怪我しても治癒さえしなかったそうです」
それは、ひどいなあ。
「それで、護衛が戦うのをただ見ていたと」
「そうです。そればかりではなく、襲撃者と面白い人物だと考えたのでしょうか、近づいていくんですよね」
「それは……捕まりますね」
「そうでしょう?」
そんなに愚かだったのか。
「そして聖女様は脅され、自分が怪我したくないがためにあっけなく投降。そして味を占めた他の組織も同じようなことをやるようになったというわけです」
「聖女に危機意識は生まれなかったのですか?」
「それが……このことは神殿にとっては汚点ですからね。発表されませんでした」
つまり、それが広がったのは悪の組織同士でのこと、ということか。
「そして、かなりが連れ去られ、やっと本格的に動き出したんですね」
「愚かですね」
そのために私がこの世界に連れ去られたの?
迷惑だ。
「その後の被害はどうなったのですか?」
「相変わらずですよ。聖女たちが甘やかされて育っているうちは消えることはないでしょうね」
「では、聖女はなぜ自分に治癒を使えないのか知っていますか?」
「はい」
「……え?」
知っているの?
私から聞いたとはいえ、驚かざるを得ない。
「私の家に文献がありましてね」
「え?」
なんであるの?
国家機密案件くらいじゃない?
「先祖様がちゃんと記録しておいてくれたんでしょうね。王家にも同じようなものはあると思いますよ」
「そうなんですね。それで、理由は?」
あんまり機密ではないのかな?
……ん? 記録?
つまり、何かきっかけがあって使えなくなったってこと?
「あれはそう、被害が出始めたころのことです」
彼は語る。
「あの頃は聖女様も自分自身に治癒が使え、安全に過ごしていたのですが、自分にも治癒が使えるがために、彼女らはひどい扱いをされていました。
いまでこそ聖女の扱いはけがをさせられないものになっていますが、あのころは聖女にけがをさせられることなんてよくあったそうです。そして、それをなおされ、またひどい扱いを受ける。その繰り返しでした」
酷い……
「それに心を痛めた偉大な聖女様がおりまして、名前をミア様ともうします。
彼女は過去の文献を調べ、せめてもの解決策として、聖女には治癒を使えないようにさせようということになりました。
彼女の決断のおかげで、聖女様のとらわれ先での扱いはいいものにはなりましたが、被害は消えませんでした」
「あのー」
「何ですか?」
「私は聖女が連れ去られているのは自身に治癒が効かないからだと聞いたのですが……」
「一般にはそうなっています」
「どうしてですか?」
「こちらに非があると知られたくないからですよ、特に神殿関係者は」
権力争いかな?
「ちなみにその後、ミア様はどうなったのですか?」
「死にました」
やっぱり……
すごい人だなぁ
「一般的には死因はどうなっているのですか?」
「病気ということにしました。そしてそれは自身に治癒が効かないから、と」
都合よく作られている。
ただ、かなり効果的な方法だ。
「どうやったらなくなると思いますか?」
「分かっていたらもう実践しています」
それはそうだ。
「今日はお忙しい所ありがとうございました」
面白い話も聞けたし、ベアンクリス伯には感謝しないと。
◇◆◇
前々から頼んでいた、この前襲撃してきた8人への面会が許可された。
「こんにちは」
「聖女サマともあろう人が一体何の用だ?」
彼らは、牢の中にいた。
「私を襲おうとした理由を教えてください」
「そんなんきまってるだろ。あんたを捕えて自分たちのいい様に使うためだよ」
「私を使おうとしたわけを教えてください」
「その方が有利になるからなぁ」
ここまでは事前に聞いていた通り。
「あなたたちはどんな組織にいるのですか?」
「……」
そして、ここも聞いていた通り。
彼らは、自分の組織のことになると口をつぐむ。
それは、拷問しても同じだったらしい。
「では、あなたの望むものを教えてください」
「ここからの脱出」
「そうですか……」
救いようがない。
「では、最後に一つだけ。
あなたたちの目的は知りませんが、私は召喚された身です。この世界にそこまで愛着はありません。
その点では、お役に立てるかもしれませんよ?
何かありましたらミアを呼べ、とでも仰ってくださいね。もちろん今でも構いません」
彼らは何も言わなかった。
残念だ。
神殿に帰って、私はそう思った。
最近は私の活躍もあってか、多少は仕事が減っている。
そのおかげであのような時間もとることは出来たわけだが……
今はまだ日本での2時くらい。
今日の残りは、自由時間だ。
「山名さ~ん!」
……気のせいだろう。
「山名さ~ん!」
気のせいの……はずだ……
窓を除くと、佐藤さんがいた。
「どういたしますか? ユウナ様がいらしているようですが……」
「気にしないでいいわ」
「ですが、彼女は自分の気に食わない行動をするものに……って今もそうですね」
その通り。私はもう佐藤さんからして気に食わない行動を取っているから関係ないんだよね。
だけど。
最近は余裕が出てきたお陰で別にいいんじゃないか、と思う自分もいる。
聖女の活動が私に自信でも与えたのだろうか?
「いいわ。呼んで」
結局、どうなるのか気になったので、呼んでもらうことにした。
「かしこまりました」
「いらっしゃい」
「山名さん? その口調、一体どうしたの?」
「どうしたも何も……言いやすい時に言いやすい口調を使っているだけだよ?」
「それでいらっしゃい、なの? ウケる〜」
笑われた。どこがおかしいのか全くわからない。
「用事はそれだけ?」
何処からか、佐藤さんとの会話を変に引き伸ばさない勇気が出てきた。
「うん、お話したくて来ただけだから」
「じゃあ帰って」
「なんで?」
「私はあなたと違って仕事で忙しいの」
今日は暇だけど。
「あたしだってちゃんとしているよ!」
「例えば?」
「国王とか王妃様とお話したり……」
「もしかしてあなたそれを仕事だと思っているの?」
「もっちろん!」
あぁぁ…残念な人だ。
「じゃあ私の仕事を教えようか?」
「え…別に?」
なんだそりゃ。それぐらいの好意受け取れよ。好意ではなくて悪意だけど。
「そう、じゃあ帰って。私はあなたほど暇じゃないから」
「あたしも暇じゃないよ。これも他の聖女との交流という重大な任務の一環で……」
「そう、じゃあ他の聖女の方に会いに行ってらっしゃい。そしてこっちには来ないでね。仕事の邪魔だから」
「邪魔? あんた今あたしのことなんつった?」
「聞こえているじゃん。邪魔って言ったんだよ」
「はぁ?」
殴りかかられた。
「障壁」
ちゃんと勉強していれば聖属性以外の魔法も習得できるのに勿体ない。
さっきの攻撃も魔法とかを使っていれば、もっと効く攻撃になったんじゃないのかな?
「なっ!?」
「喋る暇があったら魔法の習得に努めたら? じゃないと誘拐されるよ?」
「誘拐? そんなのされるわけないじゃん、あたしは聖女だもん。それに、あんたと違って心強い騎士がいるもん!」
「ユウナ様……」
周りで騎士たちが感動している。
けどもしかして、佐藤さんはこの世界の状況を知らなかったりするのかな?
まさかそんなことはないと思うけど。
それに、心強い騎士? 取り巻きじゃないの?
ベノンたちのほうが絶対に強いと思う。
「じゃあね」
「聖女様、この者のところにはあまり寄らないようにしましょう。聖女様が不快に思わされるのを見るこちらの身にもなってください」
お、その護衛、結構いいこと言うね。
そっか、始めから護衛の方を不快にさせておけば何もなかったかもしれないな。
今度からはそうしよう……と言っても護衛の人にできるいたずらなんて思いつかないけど。
「大丈夫、あの人はいい役職に就いた私を妬んでいるだけだから」
馬鹿なことが聞こえた。
佐藤さんは分かっているのかな?
こっちの方が絶対仕事は楽しいのに。
ただ、意外なことに今回は私の完全勝利で終わった。
今までだったら黙って聞き流していた言葉。それにちゃんと反論して攻撃を加えるだけでいなんて……
あっちのときもすれば良かったと思わなくはないが、多分、日本だったら今まで通りだった。
あの気に食わない王様も少しは良いことしているじゃん。
何だか、鼻歌でも歌いたい気分だ。