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魔法戦記クオーレ・イクイノックス 第一話~第四話
ねの麦餅
Lit:Biteの奴の再投稿です。
漂う空のどこか遠く。誰も知らなかった、見たこともなかった、彼女の物語。永遠に等しいときの中で、彼女は何を見たのだろうか。
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「み~んみんみんみ~」
夏、7月17日。僕、日比矢信吾は今まで疎遠していた父、日比矢病負に直接手紙を受けて埼玉の大宮新都心市に来ていた。僕は既に暑く、手、耳、顔、腕、足、全身に日が照り付けていてサウナの中のように熱い。チラッともらった手紙を見る。綺麗な字で書かれている、が裏面にはペンのインクが潰れたかのように飛沫の跡がついている。多忙な中僕を育てられなかった、だから祖父母に僕を預けた。別に変な話じゃない。「でも、今更呼んでどうするんだろう。」という気持ちが、小さいが確実にあった。
「お客様がおかけになった電話番号は現在使われておりません…」
着信拒否。
ずっとこの調子だ。仕事場に電話して出ないというのはおかしな話だ。その時、振動でシャッターが揺れる音が聞こえる。
(あの戦闘機…低空飛行だ…今更戦争でもするのか…?)
ホバリングをしている戦闘機を見ながらそんな思いすら浮かんできてしまう。それに、花火みたいな爆発音。大きな足音のような音。僕に不安を積もらせる。
その時、ビルから見えたものは、いや、生物だ。動いている、呼吸のような鼓動がこちらにまで伝わってくる。6つの黄色い光が頭部にある、全身真っ黒、足は少し細い、腕は屈強で長い、肩は板のような突起が上方向に伸びている、そして80m位の巨体だ。
「化け、物だ…」
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そんな中、地下では世話しなく会話し、作業する職員の声が聞こえる。中央モニターにはあの怪物が写っている。一番上の席に座る人とその後ろに立つ老人が会話を交わす。
「ついに始まったな」その言葉に座っている人物は答える。
「ああ、間違いない。|守護天使《ガーディアンエンジェル》だ。」
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その時、射角に入ったのか守護天使に向かって巡航ミサイルを何発も放つ。そして僕の前で戦闘が始まる。全弾直撃だ。近くの建物も爆発に巻き込まれる。倒したかのように思えた、煙幕で相手が見えなかった。しかし、そんな淡い期待も簡単にへし折るかのようにその掌から錆びた鉄パイプのような見た目の杭とも槍とも似ている攻撃を戦闘機に向かって一気に飛び出させる。直撃した戦闘機はその場で爆散。今の瞬間分かった。こいつは通常兵器で死ぬような奴じゃない。立ち尽くす僕のもとに青いワゴン車が走ってきて、運転手が出てくる。青い短髪をポニーテールでまとめた女性だった。見た目就職はしているように見える。
「君が日比矢信吾君ね。」
自分の名前を呼ばれて一瞬ビクッとする。
「あ、はい…あの…」
「私は宮庭里美、行くわよ、あなたの、父さんのもとに」
父の話が出て驚く。
「僕の父を、父さんを知ってるんですか?」
「うちの上司よ」
そっけなく答えてくれるが少し驚いた。ほんと、世間は狭いんだなぁ…。ってそんな呑気なこと言ってる場合じゃなかった。里美さんは、どこかと電話しているみたいだ。
「ええ、保護したわ。このまました行くから、直通のを開けられるようにしておいて」
そのまま車を運転し、ビルの側面に車をぴったりくっつける。その後、ビルについているタッチパネルを操作、すると、地下へ続くエスカレーターが現れ、そのまま車は地下へと進む。そして里美さんは口を開く。
「私たちは『対ANGEL組織マビ』。あの時あなたの前に出てきた『守護天使』を倒すための地下組織よ。ここの下が奴らの目的地。だからここはある意味、迎撃拠点でもあるということよ。あなたの父さんはその総司令官。」
それを聞いて僕は聞きたかった疑問を聞くことにした。
「何故父さんが今になって僕を呼んだんでしょうか?」
里美さんは一瞬の沈黙の後答えを言う。
「あなたにしかできないことがあるの。絶対に、それは達成しなければいけないわ。」
「なんですかそれは…?」
「それは実際に見てもらう時に言うわ」
僕は不思議と謎の期待と不安感がいっぱいだった。そのまま車は下へと下る。
あるところまで行くと止まる。扉には「89ーI」と書かれている。数字は階層、アルファベットはどこの部屋かということだろう。里美に手を引かれて入る。
「うわっ!真っ暗ですよ?」
その言葉の瞬間扉が閉まり、電気がつく。そこにいたのはロボットのように銀色かつメカニカルな外装。しかし、その恐竜、いや、怪獣ともいえるような頭、背びれ、尻尾。いくらなんでも正義の味方…に見えないような…。咄嗟に喉から言葉が出てくる。
「これを、父さんたちが…?」
「その通りだ。」
声のする方へ上へと視線を向けるとそこには上から見下ろしている父の姿が。気持ちが、こみ上げてくる。
「どうして僕をここに呼んだの?」
「お前にしかできないことだ。そしてお前がやることに意味があることだ。」
「じゃあ、僕がこれに乗って…外の化け物と戦えっていうの?」
その通りだ。と通信しているときのようなこもった声で聞こえる。僕は俯いていた。知らぬ間に、逃げるように。
「できるわけない、勝てるわけない、死にたくない、そんなの無理だ…無理だよ…」
それを見ていた里美さんが口を挟む。
「あのね、信吾君。あなたはやらなければいけないことを背負っているの。」
その言葉に耳を貸さない僕を見て更に追撃する。
「駄目よ、逃げちゃ、今ここで、泣いても、逃げても、蹲っても、状況は変わらない。時間が寄り添って止まってくれるわけじゃないの。お願い…。」
その時、父さんが背を向ける。
「駄目だな。秋香を呼べ。」
モニターに向かって呼ぶその声に画面内の老人が反応する。
「やれるかね?」
「死んどるわけじゃない。こいつよりはできるだろう。」
その後、数分後、担架に運ばれて一人の女子が出てくる。15歳の信吾と同じくらいに見える。恐らく中学生。髪は紫色のツインテールだ、少し緑の毛も混じってる。辛そうな呼吸音が聞こえる。足に巻いている包帯は血がにじんでいて痛々しい。その少女は担架を降りて歩く。しかし、歩くと足が痛むのか顔をしかめる。
「くふぅ…」
遂に転倒してしまう。信吾を押し倒す形になる。
「…逃げるのって、かっこ悪いかな?」
目の前の少女の答えは冷静で静かだが強い言葉だった。
「別に?でも、やるべきことから逃げて逃走するのは、ただ逃げるのとは違う。逃避とも違う。裏切りなのよ。他人を踏みつけて逃げることは、裏切り。」
その言葉は痛いほど伝わってくる。なんでこんなに言葉が辛いんだろう。
「…僕が乗ります。乗ってやりますよ…!」
立ち上がってメカニカルな怪獣を見る。その時声が聞こえる。
「これは相互共鳴式稼働機龍イクイノックス。その2番号機。」
その声の正体は短いまとまりのないクリーム色の髪、それに相違して研究服は綺麗に着こなしている。
「私は開発部の、桜井由美。このイクイノックスは思考で動かします。戦う時は戦闘に集中しなさい。あ、後、この子は…。」
女子を指さす。女子は答える。
「私は、愛生波秋香。」
とても素気ない。
「あ、はい…」
ここまで色々な話を聞いてきた。僕は僕に決められた物語を進められるのか?
世話しなく会話が飛び交い、僕は緊張感が高まる。留め具が外れ、イクイノックスの全貌が見えてくる。そしてキャタピラーの上に乗って移動していく。僕は機体の胸部にあるコックピットを開き、そこから乗り込む。中にはモニターと、ゲーミングチェアのようだが、足が固定されている背もたれ。車のハンドルのような操縦桿もある。それを握り、責任感を再確認する。
(僕がやらきゃ、人類はパーってことか…)
「ここまで来たら、やりきるっきゃない…!」
そこに通信が入る。
「開発部の青木れんです。これから、出撃します。そちらの持ち手を持ってください。」
壁には二つ、つり革のような取手がある。足はスキーの時のように固定されている。取手をつかむと、手がロックされる。
「…こうですね…?」
「2番号機発進準備完了!」
れんの声を聞いた里美さんは父、病負に確かめる。
「出撃して、構いませんね?」
父さんは無言で頷く。それを見て里美さんは大きな声で言う。
「イクイノックス2番号機。発進!!」
その瞬間地上へ通ずる道が開けて、僕は上へとリニアモーターカーのようなレールで出る。そして地上へ。出た瞬間に上に飛ばされる。動じずに着地。これは事前説明にあったことだ。そこに由美さんからアドバイスが来る。
「最初は動く、それだけに集中。戦法、どう動かすかは後から考えるのよ。」
「動く…」
その言葉を反芻しながら一歩前へ進む。地下では感嘆の声が上がっている。しかし、それは悲鳴へと変わっていった。
「わ、わわ!ど、どどどど、どうしよう!?」
そのまま止まらずに馬鹿正直に突っ込む形になってしまう。
「こ、こうなったら、やるしか…」
その瞬間、躓き、倒れる。そんな絶好のチャンスを見逃すわけにはいかない。この守護天使、第3守護天使(サードガーディアンエンジェル)は頭を鷲掴みして持ち上げる。モニターに見えている景色にひびが入る。痛くないのに、痛いようにすら思えてしまう。
「信吾君!避けて!」
里美さんの指示も空しく、そのまま衝撃波のようなものを放たれて吹き飛ばされてしまう。そこから掌からの杭の連撃。ビルに激突し、杭の刺さった頭からは流血する。吐きたいくらいの振動。乗り心地は最悪。頭が揺さぶられるかのようだ。そして、恐怖で気絶。れんが叫ぶ。
「神経接続カット!相互リンクの回復なし!出力機関停止!ダメです!動きません!」
それを聞いて由美が聞く。
「パワーシールドの展開状態は?」
れんが首を横に振る。
「最悪です。パワーシールド拡張率10%未満。ガードは見込めませんね。」
その時、イクイノックスの青い瞳が黄色く光る。そしてそのまま、光を増していく。由美が叫ぶ。
「相互リンク回復…出力機関稼働…パワーシールド拡張率…80%…いや、更に伸びていく!」
里美はそれで悟る。
「これは、自己覚醒…!」
その言葉とともに大きく飛び跳ね、宙で体を一回転。そしてそのまま第3守護天使を両手で掴みながら両足で踏み込む。そしてまた一瞬で後ろに跳んで退く。その後、腕の前腕部に取り付けられた高速連射が可能な2連装の劣化ウラン弾マシンガンのユニット内に格納されている近接戦闘用のカッターナイフが出てくる。そしてそのまま獣の如く奔走し、突撃する。しかし、パワーシールドによって止められてしまう。
「パワーシールド!やっぱり使ってくるか!」
昆虫の複眼のように六角形を大量に敷き詰めたようなエネルギーの防御壁だが、それをイクイノックスも展開し、飽和していく。一点に両方のエネルギーを与え続けることで無理矢理食い破っているのだ。
「両パワーシールド、飽和!」
その瞬間、イクイノックスの右ストレートが守護天使を捕らえ、吹き飛ばす。そしてそのまま突っ込み、ビルごと押して行く。途中で何度も風塵が立ち、遂にビルが倒壊する。それに守護天使を巻き込む。動けなくなった守護天使に食らいつくかのように胸部のコアを叩いていく。突然、守護天使が急速にスピードアップし、その場から離れた。それを見て病負と老人、木曽中盛は会話する。
「ほう?自分の肉を切り落として軽量化。スピードタイプに成り代わったか。」
「そうだな。だが、攻撃力と防御力がおざなりになる。勝ったな。」
スピードで翻弄しようとするがそれ以上の速度でイクイノックスは動く、そして何度も打ち付けるうちに守護天使の全身は折れまくり潰れまくりの悲惨な状態になる。その時、守護天使の6つの目らしきものが光り、自爆する。その規模の大きさに絶望する。
「目標は、沈黙。ですが…」
れんが言おうとした瞬間。足音が木霊す。爆炎の中からイクイノックス2番号機が堂々と歩いて出てきた。
「これが、イクイノックス…!」
「守護天使と戦ううえでの人間の希望ね…」
イクイノックスは雄たけびを上げたのち、目がいつもの青色に戻る。
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「信吾、信吾、起きなさい。私のために。私のために。」
その呼びかけに僕は答える。
「誰なの?」
その「私のために。」と強調されたコールを聞き続ける。
「私は貴方の____」
そこで目が覚める。夢、そう夢なんだ。でも、妙に親近感のある声。見たこと、あるのか?ふと、隣を見ると里美さんが丸椅子に座っているのが見えた。
「里美さん…」
「起きた?目覚めはどう?信吾君」
「案外悪くないです…」
なんてことないたわいのない会話が続く。しかし、いきなり驚かされることになる。
「まあ、今日から同居人としてよろしくね。」
その言葉に大いに驚いた僕の声は病院内に響いた。
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改めてそのあと聞いた話によると、今は部屋の空きがなく、そのせいで一番気楽に話せるであろう里美さんの家に同居する流れになったらしい。スーパーでの買い出しを終えた後に家に遂に入ることとなる。
「あの、お邪魔します…」
「ねえ、信吾君。ここは貴方の家でもあるの。帰ってきたら最初は『ただいま』、でしょ?」
「あ、はい。ただい、ま。」
「ぎこちないわね~…まあ、最初だからいっか。」
そのまま、家に入っていく。冷蔵庫、冷凍庫に買ったものを入れようと開ける。
(…アイスと、冷凍食品、ワイン、そんなのばっかだ)
その悲惨ともいえるような中身の冷蔵庫、冷凍庫を閉じる。その後夕食を済ませて、風呂に入り、寝る。一連の流れには別に揺らぎはなかった。
(里美さん。いい人なんだな、あんな人初めてだ。)
そんなことを考えながら、いつの間にか寝付いていた。
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里美さんは今、街の修復現場に立っている。一回守護天使が来ただけで疲弊しすぎな気がする。しかし、それは防衛都市がしっかり稼働していなかったから。次回からは違う。そう願いたい。ビル型ミサイルサイロ、大砲式マシンガン、山間部曲射ミサイルサイロ、武器運搬用レールビル、などなど…前回なかったものは今回の補修工事のついでで本来追加予定だったものを早めて設置した物だ。
「全部の武装にイクイノックスの活躍があれば、守護天使に勝つのも夢じゃないわね。」
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所変わって本部、病負は会議に出ていた。重々しく、他の老人たちが口を開けていく。
「日比矢君。君はこの状況をどうする気かね?」
「初戦でここまでの損失があるとは、聞いてないぞ。」
「機体自体の損傷もそこそこにあると聞く。」
「誤算だったな。予定の3年前に襲来するとは。」
「してやられた、というべきか。むしろ好機と呼ぶべきか。」
「我々の先行投資が無駄ではなかったと思えば安いものだ。君は本来の目的である世界拡張計画を忘れずにしているよな?」
やっと病負が口を開く。
「はい。勿論です。全ては、あなた様方の未来予測図通りです。では。」
老人たちが消える。立体映像だったようだ。
「ことは確実に進んでいる。もう少し出会えるよな。」
一つの写真を取り出すが、見もせずにまたしまい、歩き始める。
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僕はどうなってしまうんだろう。不安が気持ちの大部分だ。そしてその要因の一つが…新しい学校だった。
ぷっは~!やっぱ、朝一に食べるアイスは効くぅ…!!」
里美さんはアイスカップを食べながら何度も同じことを言う。ほんとにそう思ってるのかが不安になるくらいに。何度も連呼してたら感情薄まるんじゃないの?と、心配。
「そういえば、今日から学校よねえ?携帯、制服、鞄、教材…とかはそろえてあるから。それにいいところだからいじめとかはないと思うよ!」
それに対して「どうですかねえ…」と返す僕。理由は簡単。イクイノックスは暴走的な事故を起こして町もすごい巻き込んだ。だからパイロットって知った人は…。僕が好きじゃないだろう。嫌いだろう。殴りに来るだろう。それが強い人だと僕に味方はなくなる。…負の連鎖だ。行く気になれない。けど、行くしかない。
「行ってきます」
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学校だ、なんというか、広い。おじいちゃんの地元の学校の5倍くらい…流石は大都市。リュックみたいな鞄だなぁ…ちょっと重いし大きい。ふと、辺りを見てみる。すると秋香が見える。試しに…。
「あ、愛生波…!」
「何?」
「え?えっと、あ、おはょぅ…」
「???何しに来たのかわからない」
「挨拶だよ…あ・い・さ・つ」
首をかしげる。なんだよ、そんな僕と話すことに必要性をッ感じられないのかッ!酷いじゃないか…。そこに二人の生徒が寄ってくる。
「お前が転校生やな?」
「この時期に来るとは、ね」
「なあ、なんでこっち来たんや?」
しどろもどろになりながら言う。
「か、家族が仕事で…」
「ふーん、じゃあお前の仕事はデカいバケモン退治か?」
驚いて振り向く。
「どうしてそれを…!」
しかし殴られていた。既に。
「あってるんやな?」
首根っこ掴んで持ち上げる。
「妹がなあ…骨折で入院してもうたんや、昨日のアンタラのドンパチのせいでな!」
もう一度殴り飛ばす。
「なあ、あんた、すまへんなあ、殴らなきゃ、気が済まへんのや。」
「僕だって、乗りたくて乗ったわけじゃ…」
その声に気づいてもう一度殴り飛ばす。もう一人の男子は野次馬だったようで、驚いている。あ!畜生!愛生波、助けてくれてもよかったじゃないか!
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(初日から、酷い目にあった。もう、やだな。人に傷つけられてまで、戦いたくない。)
そんな僕の負のオーラを感じ取ったようで里美さんが声をかける。
「大丈夫?じゃ、ないわね。」
俯きながら空元気で笑う。
「いえ、大丈夫です。はは、はぁ…」
にしても、あの人、名前も知らないや…。はあ、同じクラスなの鬱だ。風呂に入りながら湯気が舞う照明を見つめる。風呂場で歌うのは好きでそこそこ長く入ってしまう。だけでもそんな時間も早く過ぎる。5曲目くらいで急かされ始める。はあ、いつまでもここにいたい。風呂で歌っていたい。
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その時、緊急サイレンが鳴り響く。午後の6時だった。
「状況は?!」
森山握世が対応する。
「現在、川崎防衛線を突破!第4守護天使が確実に進行中!航空部隊での足止めは不可能!」
里美が命令を下す。
「わかったわ。イクイノックス2番号機を町に配置!そして足止めの手を緩めないで!効果がなくとも、少しは気を引けるわ!」
「発進!」
前同様に出撃する。今回は、失敗しない、訓練の成果を、見せろ!両腕の2連装の劣化ウラン弾マシンガンを乱射する。
「うわあああああああああああああ!!!!」
目標にあたっている。あたっているが…。
「馬鹿!煙幕で相手が見えない!」
突然第4守護天使の光の鞭が飛んでくる。ビルや、様々なものを切っていく。第4守護天使はラブカのような頭、光の触手いや鞭、腰から下は人の足が以下のように10本生えている。守護天使は突撃しながら光の鞭を振りまくる。ビルを切り、地面を切り、それをイクイノックスはギリギリでかわしていく。しかし掠ってしまうことがある。
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話は少し前、今日の朝に遡る。
「なあ、おい」
信吾が殴られた時の野次馬、域崖隻だ。そいつが信吾を殴った張本人、関山陽徒と話している。
「どうしたん?」
「お前、アイツ殴ったけど、そのせいで出撃しないとかなったらどうするんだ?」
「あ、ああ、実はあの後怒られてもうて、それに罪悪感もあったし、今日謝ろうと思っとったん。」
「じゃあ、一緒に旗作ってさ、アイツ出撃したときに見せようと思うんだ。」
「お前、あんた、あったまいいなあ!決まりや!」
そんなこんなで旗を作り、現在、山の神社から様子を見守っている。
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現在、攻撃はパワーシールドで防がれ、相手の攻撃が一方的に入るという不利な状況が続く。
(攻撃する瞬間は守りが薄くなるはずだ…)
その瞬間、イクイノックスの足元を光の鞭が巻き取り、体が宙に浮く。そしてそのまま、投げる。そして山に着地した。肘近くに、陽徒と隻の二人が旗を持って立っている。
その瞬間、緊張が走る。一瞬の隙に距離を詰めて、カッターナイフで刺す。しかし、パワーシールドは飽和状態じゃない。守護天使がイクイノックスの腹を貫いており、力が出ない。
「くそおおおおおおお!!」
そこに黄色い影がスッと割り込んで第4守護天使を裏拳でぶっ飛ばす。
「下がって」
それはイクイノックス1番号機だった。そして中には、愛生波秋香が乗っている。持ち手が分かれている薙刀を持っている。
「一緒にもって、突っ込む」
口足らずだが、何がしたいかは手に取るように分かった。
一気に、加速。背中についている高出力ブースターを内蔵したバックユニット、それも最大に使う。そして守護天使の懐に突っ込む。そしてコアに薙刀を突き立て、刺していく。そして、遂に、コアを破壊する。守護天使はその後、自壊した。
愛生波秋香。彼女はずっと何かを考えているかのような顔だった。第4守護天使を倒しても全くうれしそうじゃなかったし、憂鬱そうに空を見ていた。私生活でも、パイロットとしても、彼女は基本無口。話したいけど、なんて話せばいいのかなんてわからない。
「よお、信吾。何気難しい顔しとんのや?」
陽徒が話しかけてくる。僕が黙っていると何か察したように、している。
「愛生波のことか?」
僕の驚いた顔に「ビンゴ」っと呟く。
「そう難しく考えてもなんも変わらへんで。それによ、お前は恩人で友達やから、困ったときは言えよ。黙り込まないでくれよ。」
「…わかったよ。じゃあ、さ。愛生波と話すにはどうすればいいと思う?」
一拍おいてから答えてくる。
「パイロットの云々で会う時にあいさつを交わすだけでも違うと思うで。まあ、アイツに普通の人のコミュニケーションが通ずるかわからんが。」
噂をすれば影。丁度その時、愛生波が廊下を歩いてるのが見える。女子に話しかけられても知らんぷり、挙句の果てに殺気を漂わせ、無理矢理にでも遠ざける。
そういえば前に…
「喋りかけないで。吐き気がする。頭がおかしくなりそう。」
前に学年で1番モテる男子生徒に愛生波が放った一言。いけ好かない奴だが、そこまで言うことがあるか。何か、理由があるのかもしれない。
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二日後。由美さんに呼ばれた。
「はい。これ。」
差し出されたのは愛生波のマビカード。これがないと一人で組織内に入れることが出来ない。
「これ…どうしたんですか?」
「彼女、定期更新の後このカード置いて帰っちゃったの。私はこの後、予定があって渡せないから、頼めるかしら。」
しどろもどろに。
「ああ、はい…。」
(愛生波と会話できるいい機会かもしれない。で、でも、ぶっつけ本番って、大丈夫かな)
そんな心配をよそに由美さんは出て行ってしまった。
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そういえば…由美さんってどこに行くんだろう。里美さんも一緒に行くみたいだし。そんなこと考えてる場合じゃない。今僕は、愛生波の家の前にいる。ノックをしても、ベルを鳴らしても返事がない。ドアノブに手をかけると、開く…。鍵かけてないのか。愛生波、鍵はつけるべきだよ…。そこに銀髪の少年が一瞬現れて、消える。
「い、今の…え?あれ?」
愛生波自身はいないし、怪奇現象まがいのことは起きるしで、ここは大丈夫なのかと心配になる。突然、後ろの扉が開く。愛生波だ。…ん?
(愛生波…なんで下着姿…あ、誰も来ないと思ってくつろいでたのか?)
愛生波はため息をついた後、麦茶を差し出して、何も気にする様子無く、ソファーに座る。空中にはパネルが浮いていて、何かの資料?が書いてある。でも、この文字、全く見たことがない。その時突然口を開く。
「あなたがここに来るってことはあの子が私を望んでいるとポジティブに捉えるべきかしら?」
あの子?誰のことだろう。
「あの子ってだr」
「知る必要はないわ。あなたは知ったら、死ぬんじゃない?」
その後、来た理由を思い出してカードを渡す。
「こ、これ!由美さんから!」
「これを口実に来たのね。」
Qなんでそんなに厳しいんだ? Aあなたたちは敵だから。
「え?今、思考に直接…」
「気にしないで欲しいわ」
そんなあ…。
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突然、出撃命令が出される。相手は第5守護天使。でも、愛生波と二人なら、きっと。
「今回はあなた一人よ、信吾君。」
れんさんが言うには、1番号機は前回義手パーツを使って無理矢理出しただけで治っていなく、それ故に今回、連戦はできない。とのこと。
僕は地上に送り出される。第5守護天使は青い六角形の平面をいくつもつないで作ったような板のような奴だ。薄っぺらい。ナイフで片が付きそうなレベルだ。地上に飛び出そうとしたその瞬間。
「目標に高エネルギー反応!パワーシールド周波変化!パターンは222、今までで最大のパワーシールドです!目標のパワーシールド拡張率は100%突破!」
熱線に打たれていた。まさにビームともいえるようなその一閃。声を出す間もなく穴をそのまま落ちていった。肩を貫かれた。顔の半分が焼けた。このくらいで済んでよかったが、当たりどころでは、死ぬ。こんなの無理だ。対応出来るわけない。
「死ぬのは嫌だ、死ぬのは嫌だ、死ぬのは嫌だ、死にたくないよ、死にに行くなんて絶対に嫌だ…死ぬのは、嫌だ…!」
記憶にないがこれがコックピットから出てきた時の第一声だったそうだ。その後僕は部屋に閉じこもってしまう。閉鎖した部屋の中で、イヤホンから聞こえる音楽だけが僕に寄り添ってくれる。外界から僕を切り離してくれる。
「信吾君。ちょっといいかしら」
帰ってきたのか里美さんが。…今は人と話したくない。情報を共有したくない。
「信吾君。一緒に行きたいところがあるの。いいかしら、いいわね?」
里美さんはそう言って僕の頭に触れる。こっちだって言いたいことはあるんだ。
「なんで僕に乗せるんですか?どうして僕だったんですか?どうしてこんなに辛い事が僕なんですか?!」
いつの間にか声を強めてしまう。
「嫌なんですよ!死ぬのが!」
僕は何で、どうして乗れるの?
「それは、当り前よね。でも、信吾君。それは貴方にしかできないことなの。だから私たちはあなたに全人類の命をあなたに預けてるの。」
「だいたい、それ、どういうことですか?別に守護天使は強くて普通の兵器には無理ですけど、他のイクイノックスに任せればいいじゃないですか。それに、それに…」
ずっと思っていたことが口から出る。
「どうして、この街によってたかって来るんですか?!おかしいですよ!」
「そういう疑問を持つ気持ちもわかるわ。だから…」
一緒に来て、という言葉が聞こえる。
外に出ると第5守護天使が地面を溶かしている。先端はスタンガンのようになっている針を伸ばしているらしい。なんでそんなことを?
「何やってるんですか、アイツ、何で地面を…?」
「その理由を教えるわ。行くわよ。」
本部の地下に連れられて行く。999-Zという文字の階に来る。多分一番下。なにか、あるのか?扉は厳重にロックされている。それを一つ一つ里美さんが紐解いていく。
「…ッは!?」
絶句した。そこにあるのは大量の鎖で固定された巨大な人型。胸部には先端はひし形が真ん中で二又になっている。それに、赤とピンクが螺旋状に混じっている。石突は鳥の羽のような物がついている。どこか可愛らしさすらある槍だ。そして刺し口から体液が出ている。
「イクイノックス?守護天使?」
「そう、第2守護天使。こいつが全ての人を生み出したのよ。」
「そんな…でも、それがどうしてここに?」
「守護天使はこいつに向かって攻めてくるのよ。そして、こいつと守護天使が融合すると、15年前と同じことが起きる。」
15年前、北極にて、第一守護天使が見つけられ、それをあの槍で突いたら大爆発を起こし、北極の氷をすべて溶かした。そんなことが、もう一度起こるのか?
「日本は、世界は、守護天使からこいつを守るためにイクイノックスを作ったの。もう一度、あの爆発が起きたら、今度こそ人類は滅ぶかもしれない。」
「じゃあ、なんで、殺さないんですか?」
「殺せなかった、のよ。第1守護天使を爆破に追いやったあの槍を使っても駄目だったのよ。名前は『夏目梨花』というらしいわ。」
僕は不思議に首をかしげる。
「なんですかそれ、女子の名前みたいですね。」
「でも、正式名称はこれなのよ。みんなからは『悪魔の槍』とか『堕天使の槍』とかで呼ばれてるけどね。』
でも、何が言いたいか分かった。ここに攻めてくるのは第2守護天使がいるからで、殲滅に失敗して、ここにたどり着くと大爆発で人類が滅ぶと。大爆発で人類が滅ぶ?どのくらいかというと日本そのものを破壊しつくすレベルらしい。現在は人口は一番被害が少なかった中国が一番。二番は日本だ。その両国が甚大な被害を受ける。確かに人類が滅ぶというのには正しいだろう。地上に戻る。
「私たちはあの第5守護天使に滅ぼされないように策を考えたわ。」
ゴクリと唾を飲む。
「アイツは常時パワーシールドのパターン周波が変わるから飽和破壊は無理よ。だから、物的エネルギーであれを砕く。コアは攻撃時にしか出てこない。だから攻撃時か攻撃直後を一点狙いするわ。こいつでね。」
そこには巨大なクロスボウがある。
「これはうちの装備の奴でも一番火力があって一番チャージが長い奴、加粒子砲『雷蝶』。これをチャージしている間は動けないし、なにより、ビームは避けられない。だから…」
巨大なライオットシールドを持つイクイノックス1番号機がいた。
「あんな薄い盾じゃ…」
「安心しなさい」
その盾にイクイノックス1番号機が防護装甲を取り付けていく。いつの間にかかなり重厚感のある盾になっていた。
「凄い…」
「アイツの狙撃は百発百中よ。避けることは絶対に考えないで。あなたは、撃つことだけを。愛生波は守ることだけを考えなさい。」
「はい」
愛生波が通信上で話す。
「日比矢君。クロスボウは引いた状態からチャージを開始、67秒後に発射可能になる。そして矢状のエネルギー収縮装置が働く。そして先端の銃口から、撃つの。わかった?」
愛生波が自分から声をかけてくれたのが嬉しかった。それに呼応する。
「わかったよ。70秒で片を付ける。」
愛生波が下りてくる。…本当に唖然した。なんだよその魔法少女みたいな服。紫色の上着、その下には白とピンクのスカートがちょっと短いワンピース。
「何が言いたいのかわかるけど、言ったところで理解できないわね。」
謎に小ばかにされた。
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遂に時が来た。職員が言う。
「あと1時間で守護天使が侵入してきます!特殊装甲版残り4枚!」
「それだけあれば十分よ、作戦、開始!」
その瞬間、山々のミサイルサイロからミサイルが飛んでくる。守護天使は一瞬で消し飛ばす。連続で、大砲、戦車、ミサイル、様々な遠距離兵器を使う。たどり着いたとしてもパワーシールドによって阻まれる。遂にチャージをし終わった。僕はクロスボウの引き金を引こうとした。が、守護天使がビームのチャージを始めた。そしてこちらに向かって放つ。
「うわっ!」
しかし、イクイノックス1番号機が守っている。
「私が退いた瞬間に撃つのよ。わかった?」
狙いを絞る。いつでも、愛生波が引いた時のために。しかしビームは絶えることなく盾を削っていく。遂に半分くらい融解した。
「長い…!」
盾はボロボロになり、ほとんど崩壊する。その時、やっとビームが止む。
「今!」
僕は第5守護天使に向かって加粒子砲を放つ。それはコアを貫き、守護天使は断末魔をあげている。と、思っていた。それはコアの横を掠めただけに過ぎなかった。そしてまたチャージする。そして僕はビームをもろで食らう。
「うあわああ!!くはあぁあああああ!!」
それでもチャージを始める。そして、イクイノックス1番号機も一緒に支えている。その身を盾にしてくれている。そして、耐えきる。
イクイノックス1番号機は半分が融解していたが、こっちはまだいける。そして標準を合わせて、撃つ。バリーン!コアが凄惨な音とともに破壊される。第5守護天使はそのまま前に倒れて爆発した。僕は急いで愛生波のもとへ行く。
「愛生波!大丈夫?!」
「あなたに心配される筋合いはないわ」
やっぱり、二人の距離は少ししか縮まらなかった。
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