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“僕はなんで生まれてきたの?”
**ぼくは**
「うわっ」
おかあさんが手をぎゅっと握って、そのままぼくのほっぺにぶつけてくる。
痛い。
また、足を伸ばしてぼくを蹴った。
ぼくは頭を手で覆い、びくびくとふるえる。
「お前は私のストレスの捌け口になるために生まれてきたんだから、逃げてどうすんだよ」
おかあさんの言う“ストレス”も“はけぐち”もわからないけど、逃げちゃダメなんだ。きっと。
幼稚園の図鑑で見た亀みたいに、背中を甲羅代わりにして蹲る。
するとおかあさんはそこに足を乗せてきて、何度もぼくの背中を踏みつける。ぐりぐりされて痛い。
怯えながらも母親を怒らせぬよう気を配り、必死で自分の身を守った。
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**僕は**
同じことが毎日繰り返されれば、耐性がつく。
その次には“慣れ”がくる。
慣れるとどうなるか――
僕の家はみんなとは違うらしい。
みんなの家はお母さんともう一人“おとうさん”がいて、どっちも殴ったりしてこない。怒ったら怖いけど、いつもはにこにこしてるんだって。
お母さんが笑ってるのなんて、見たことがない。
僕が自分の家の話をすると、みんなちょっと怖がる。僕もふだんのお母さんには慣れたけど、本気で怒るとやっぱり怖い。
みんな怖いのがいやなのはいっしょだから、家の話をするのはやめた。
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**俺は**
母さんは死んだ。
あの日母さんは酒を浴びる程飲んで、案の定泥酔し、いつも通り俺に拳を振るった。酔って歯止めが利かず、いつもより威力の強い拳が頭や鳩尾にも入った。
そしてそのままふらふらと家を出て行き、帰らぬ人となった。飛び降りらしいが、事故なのか、思いつきなのか、自死を企てた上でわざわざあの量の酒を飲んで出ていったのか、俺は知らない。
ただ、母さんが家を出る間際に残した言葉だけ、鮮明に脳裏に焼き付いている。不愉快なまでに声音、声色、声のトーンまではっきりくっきり耳に残っており、つい先程のことかのように再生される。
「もう、終わりにするから」。
その時の俺に意味はわからなかったが、背中をぞわりと悪寒が駆け抜けた。家を出た母さんの姿が見えなくなってから、俺も路地裏へと駆け込んだ。何かから逃げるように。
今思えば、結果として母さんは死んだのだから家に残り続けることが賢い判断だったのかもしれない。
ただ、大人から逃げるためか、自由を追ってか、生き延びるためにか、あの時の俺は人のいない路地へ行った。
それが間違いだったのか最善の選択だったのかは、今の俺にもわからない。
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**おれは**
俺は全てを失った。
帰る場所も、頼れる大人もいない。母親が持って逝ってしまった。
この際、今まで不味いと思っていた冷えた飯でもいい、汚い泥水でもいい、養ってくれるなら暴力を振るってくる親でもいい、とにかく俺は生きたい。何がなんでも生きてやるんだ。
飢えた獣の如く目をぎらつかせ、辺りを見回す。と、人影が目に映った。
迷子らしき、俺よりも幼い少女。
俺は迷いなく、ゴミ箱の横に転がっていたガラスの破片を手に取った。
「ごめんなぁ」
少女の首を掴んでいる手とその腕に、息がかからなくなった。
俺は躊躇いなく彼女の腕に口を近づけ、肉を貪った。
俺の身体だけが動き、何も考えないうちに少女の身体は同じ歳の頃の自分自身程に細くなっていた。
食ったことのない味で、旨くて、少し堅くて、苦かった。
おれは仰向けに寝転び、空を見ないまま目を閉じた。
もう少し、甘さが欲しかった。
カニバリズム表現が薄めになってしまった。
もう少しカニバリメインに書きたかったんだけどな。