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習作4
翳くん視点
職場の喫煙室の、煙が染み込んだ壁、それの黄土色に変色した微細な凹凸を見つめていたら、これがだんだんラメに見えてきた。
で、あいつを思い出した。
あいつ。小さい同居人。実の親から虐待を受けてきて、今は俺と暮らしている8歳のいのち。
俺ぁ子供なんか好きじゃないけど、まあ、あいつならいいかと思うのだ。だってあいつは従順だし、そんなに飯を食わないから。
それより。
最近あいつの中では空前のラメペンブームが来ているらしい。今朝もらくがき帳にぶどうの匂いつきのラメペンをぐりぐりとこすりつけていた。らくがき帳や折り紙のいたるところにラメがなすりつけられていて、きらきらと白っぽくかがやいている。
俺もラメは好きだ。きらきらしているものは基本的に好き。分かりやすいから。
母さんの真珠のネックレスも、イヤリングも、ルージュも、ネイルも、ハンドバッグも好きだった。
つやつやの巻き毛も好きだった。
香水の瓶も好きだった。
華奢で繊細な女の象徴。女の誇示。
母さんのことは嫌いでも、母さんの持ち物は好きだったのだ。
あの人は俺を殴らなかったけど、俺は殴られた方がましだった。
だって父さんから受けた傷は、母さんから貰った愛情より、よっぽど治りが早かったのだ。どちらも俺をぐちゃぐちゃのぐじゅぐじゅにしたことに変わりはないけれど、それでも。
それはいい。もう過ぎたことだ。
結局言いたいのは、俺とあいつが、深いところで結びついているということだ。
どうやらそうなっているらしい。
帰りにラメペンを買っていってやろうか。
俺が受けた傷と愛情の分だけ、あいつには快楽だけをあげたいと、今はそう思うのだ。